院長コラム
Director's column
ニュースで話題のハンタウイルス。
日本で心配する必要はある?
感染経路に関する正しい知識と怖がりすぎない予防策
最近、海外のクルーズ船での集団発生などで、「ハンタウイルス」という言葉をニュースで耳にした方も多いとおもいます。 「ウイルス」「集団発生」と聞くと、とても怖い病気のように感じて不安になる方も多いでしょう。結論から言えば,日本で普通に生活している方が,このニュースを見て過度に心配する必要はありません。ただし,海外渡航,特に南米への渡航歴がある方や,ネズミの糞尿がある場所を掃除する機会がある方は,感染経路と予防策を知っておくことが大切です。
ハンタウイルスは、私たちの日常生活で誰からでも簡単にうつるような感染症ではありません。まずは、ウイルスがどのようにして人に感染するのか、その「感染経路」を正しく知ることが、不安を和らげ、自分や家族を守るための第一歩です。海外旅行やキャンプ、古い倉庫掃除の機会がある方は、ぜひこのコラムを読んで予防にお役立てください。
Q.そもそもハンタウイルスとは?
ハンタウイルスは、主にネズミなどの「げっ歯類」が自然界で持っているウイルスです。ネズミ自身はこのウイルスを持っていても病気にはなりませんが、人がこのウイルスに感染すると、重い症状を引き起こすことがあります。
ハンタウイルスによる病気は、地域によって原因となるウイルスの種類や、現れやすい病気のタイプが異なります。
主に北アメリカや南アメリカでは「ハンタウイルス肺症候群(HPS)」という肺の症状が重く出る病気が知られており、一方、アジアやヨーロッパでは「腎症候性出血熱(HFRS)」という腎臓に影響が出る病気が多く報告されています。
特に南北アメリカでみられるハンタウイルス肺症候群は重症化しやすいため、注意が必要な感染症として世界的に監視されています。
Q.どうやって感染するの?
ハンタウイルスの主な感染経路は、ウイルスに感染したネズミの尿、糞、唾液、巣の材料などに含まれるウイルスを、「人が吸い込んでしまうこと」です。たとえばネズミが住み着いている小屋、倉庫、古い家屋で片付けをおこなったり、あるいはキャンプ場などで、乾燥したネズミの糞やほこりを掃除機で吸い取ったり、ほうきで掃いたりすると、ウイルスを含んだ細かい粒子が空気中に舞い上がります。それを人が吸い込むことで感染する危険性が高まります。ごくまれに、ネズミに直接噛まれたり触ったりして感染することもあります。
ここでおさえておくべき重要なポイントとして、多くのハンタウイルスは「人から人へは通常感染しない」ということが挙げられます。インフルエンザやコロナウイルスのように、人から人にうつるウイルスは大流行をおこす危険性が高まりますが、そういった感染は通常おこらないということです。ただし南アメリカなどで見られる「アンデスウイルス」という種類に限っては、患者さんとごく身近で長時間接触した場合などに限り、例外的に人から人へ感染したことが報告されています。今回のクルーズ船のニュースも、このアンデスウイルスが原因でした。しかしこれも一般的な空気感染のように、すれ違っただけで広がるようなものではないので安心してください。基本は「ネズミとの接触」が原因です。
どんな症状が出るの?
ウイルスに感染してから症状が出るまでの「潜伏期間」は、おおむね1週間から5週間程度とされています。
最初はかぜのように見えても、急に状態が悪くなることがあるのが怖いところです。重症化すると集中治療室での治療が必要になり、命に関わることもあります。
Q.感染するとしたらどういう状況?
日本では,南北アメリカで問題となるハンタウイルス肺症候群について,現在まで国内での患者発生は報告されていません。
一方で,過去には実験施設などでハンタウイルス関連疾患が問題になった歴史があり,また国内の一部のネズミから関連ウイルスが確認されたこともあります。そのため,一般生活で過度に心配する必要はありませんが,ネズミの糞尿を吸い込まないという基本的な予防は大切です。
以下のような状況で、発熱や息苦しさが出た場合は、ハンタウイルスのことも含めて検討が必要です。
- 海外旅行、特に北アメリカや南アメリカなどの流行地域から帰国した後に症状が出た場合。
- 古い倉庫掃除、山小屋、キャンプ、実家の片付けなどで、ネズミの糞尿がある場所を掃除した後に、発熱、強いだるさ、筋肉痛、息切れなどが出た場合。
- ご家庭や職場でネズミの姿を見かけたり、接触した可能性がある場合。
受診の際には、必ず「ネズミとの接触があったかもしれない」「海外渡航歴がある」「山小屋や倉庫の掃除をした」ということを医師に伝えてください。これにより医師が適切な診断をしやすくなります。
ハンタウイルスの診断には、症状だけでなく、どのような場所に行ったか(曝露歴・渡航歴)や専用の検査が重要です。現在、特効薬となるウイルスのお薬は確立していません。そのため酸素の投与や呼吸のサポートを行う支持療法(対症療法)が治療の中心になります。重症の場合は、いかに早く治療を開始するかが回復の鍵となります。
Q.日本でもハンタウイルスって、注意が必要なの?
繰り返しになりますが、ハンタウイルスは、日本では過去に実験施設内での感染や、一部のネズミからウイルスが見つかったという記録はあるものの、現在日本国内で日常生活を送っている一般の方が感染して発病した例は報告されていません。そのため、ただちに日本で大流行を心配するような感染症ではありません。
しかし、お仕事やレジャーでげっ歯類と接する機会がある方や、海外(特に南北アメリカ等)への渡航歴がある方は注意が必要です。ニュースを見て「怖いウイルスだ」と必要以上に怖がるよりも、「どうやってうつるのか」という感染経路を正しく知り、ネズミとの接触を避けるという予防策を実行することが何よりも大切です。
まとめ
ハンタウイルス感染症は、まれではありますが、重症化することがある感染症です。主な感染源はネズミなどのげっ歯類であり、その糞尿やほこりを吸い込まないようにする工夫が最大の予防法です。万が一、「発熱と息苦しさ」があり、「ネズミとの接触」や「海外渡航歴」がある場合は、迷わず医療機関にそのことを伝えてご相談ください。過度に不安にならず、正しい知識を持って日々の生活やアウトドアを安全に楽しみましょう。
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エッセンス
- ハンタウイルスはネズミの糞尿や唾液などから人に感染するウイルスです。
- 初期症状はかぜや胃腸炎に似ていますが,ハンタウイルス肺症候群では急速に咳,息苦しさ,呼吸不全へ進むことがあります。
- 人から人へは通常うつりません。日本国内での大流行の心配はありません。
- ネズミがいた場所を掃除する時は、換気し、消毒液で湿らせてから拭き取りましょう。
- ネズミとの接触や海外渡航後に「発熱や息苦しさ」があれば、早めに医療機関へご相談ください。
医学的に注意すべき補足事項
- ハンタウイルスによる感染症(HPS、HFRS)には、現在有効な特異的抗ウイルス薬(特効薬)は確立されていません。
- 今回のクルーズ船の事例等で話題になった「アンデスウイルス」のみが、限定的なヒト-ヒト感染を引き起こすことが報告されていますが、これは密接で長時間の接触が前提であり、インフルエンザのように容易に広範に広がるものではありません。
- ウイルスを保有するドブネズミなどが日本国内で確認された例はありますが、現在までに国内で一般の方が感染したという患者発生の報告はありません。
使用した資料ごとの要点まとめ
- CDC(米疾病予防管理センター):アンデスウイルスによるクルーズ船の事例。HPSの臨床症状(初期のインフルエンザ様症状から呼吸困難への急変)、潜伏期間、げっ歯類の排泄物からのエアロゾル感染、例外的な人-人感染について。
- WHO(世界保健機関):ハンタウイルスの世界的分類(HPSとHFRSの違い)。主な感染経路、症状、潜伏期間。治療は支持療法が中心であることや、人-人感染のリスクは低いこと。
- ECDC(欧州疾病予防管理センター):クルーズ船事例に対する欧州でのリスク評価。アンデスウイルスはヨーロッパのげっ歯類には存在しないため、EU圏内での流行リスクは「非常に低い」と評価。
- 厚生労働省:HPSの基本情報、致命率の高さ(40-50%)。日本国内での発生はないことと、4類感染症としての届出の必要性。
- JIHS(旧・国立感染症研究所):日本における歴史(梅田や実験施設での事例)。宿主となるネズミの分類や、HPSの症状の詳細、診断方法、掃除の際の具体的な注意点。
- FORTH(厚労省検疫所):海外渡航者向けの注意喚起。クルーズ船事例に触れつつ、流行地への渡航やげっ歯類との接触歴がある場合は、入国時や受診時に申告することの重要性。


