気管支拡張症に新しい治療薬が登場! 「ブレンソカチブ」はどんな薬?

院長コラム

Director's column

気管支拡張症に新しい治療薬が登場!
「ブレンソカチブ」はどんな薬?

何度も気管支炎や肺炎を繰り返す「気管支拡張症」

「何年も痰が続いている」「気管支炎や肺炎を何度も繰り返している」。こうした症状の原因の一つに、気管支拡張症という病気があります。

気管支とは、肺の中に空気を運ぶ管のことです。通常、気管支の内側には細かな毛のような構造があり、痰や異物を外へ運び出しています。ところが、感染や炎症が長く続くと気管支の壁が傷つき、管が異常に広がってしまうことがあります。これが気管支拡張症です。

気管支が変形すると痰がたまりやすくなり、細菌が増えやすい環境になります。すると感染や炎症が起こり、さらに気管支が傷つく。この悪循環が病気を長引かせる原因になります。

ただし、CT検査で気管支が広がっていても、症状がほとんどない方もいます。画像に異常があるだけで、必ず治療が必要になるわけではありません。

体を守る「好中球」が、気管支を傷つける?

気管支拡張症の治療では、これまで痰を出しやすくする治療や、抗菌薬による感染対策が中心でした。しかし、近年は「好中球」という免疫細胞の働きにも注目が集まっています。

好中球は、細菌などから体を守る白血球の一種です。細菌が侵入すると集まってきて、さまざまな方法で病原体を攻撃します。

その武器の一つが「好中球エラスターゼ」などの酵素です。酵素とは、体の中で化学反応を助ける物質のことです。

ところが、この酵素が気管支の中で過剰に働くと、細菌だけでなく、正常な気管支の組織まで傷つけてしまいます。さらに、痰を増やしたり、痰を外へ運ぶ働きを弱めたりすることもあります。

つまり、感染から体を守ろうとする反応が、強くなりすぎると、かえって気管支を傷つけることがあるのです。

これが気管支拡張症の治療を考えるうえで、非常に重要なポイントです。

新薬「ブレンソカチブ」は何をする薬?

2026年10月、気管支拡張症に対する新しい飲み薬「ブリヌスプリ」が日本で発売されました。一般名をブレンソカチブといいます。この薬は「DPP-1」という酵素の働きを抑えます。

DPP-1は、骨髄で好中球が作られ、成熟する過程で、好中球エラスターゼなどの酵素を働ける状態にする役割を持っています。

ブレンソカチブは、その活性化を抑えることで、好中球が気管支を傷つける働きを弱めようとする薬です。

大切なのは、好中球そのものをなくす薬ではないということです。好中球が持つ感染防御の働きをすべて止めるわけでもありません。

では、感染から体を守る仕組みの一部を抑えて、感染症が悪化することはないのでしょうか?

実は、気管支拡張症では、細菌が気道に存在することと、症状が悪化することは必ずしも同じではありません。

過剰な炎症によって気管支が傷つくと、痰がたまりやすくなり、感染や炎症が続きやすくなる可能性があります。そこで、過剰な酵素の働きを抑えることで、気管支への傷害を減らし、病気の悪循環を弱められるのではないかと考えられています。

ただし、感染を防ぐ能力が改善したことまで証明されたわけではありません。

臨床試験では、病気の悪化が約19%減少!

この薬の効果を調べたのが、約1,700人が参加した「ASPEN試験」です。

過去1年間に2回以上、気管支拡張症の悪化を経験した患者さんを対象に、約1年間の治療効果を比較しました。その結果、薬を使わなかったグループでは、患者さん1人当たり年間1.29回の増悪が起こりました。一方、ブレンソカチブ25mgを使用したグループでは1.04回でした。

つまり、年間の増悪発生率が約19%減少したのです。

ここでいう増悪とは、咳や痰などの症状が悪化し、抗菌薬による治療が必要になるような状態を指します。また、肺機能の低下を抑える効果も確認されました。

ただし19%減少とは、100人中19人が完全に増悪しなくなるという意味ではありません。年間の増悪回数を比較したときの相対的な減少率です。

また、広がった気管支が元に戻ることや、病気が完全に治ることが証明されたわけではありません。

すべての患者さんに使える薬ではありません

ブレンソカチブは、気管支拡張症と診断されたすべての患者さんに必要な薬ではありません。

特に、抗菌薬が必要になるような増悪を繰り返すリスクがある患者さんが、治療の対象として考えられます。

また、皮膚が厚く硬くなる症状、発疹、歯ぐきの異常などの副作用が報告されています。

さらに、気管支拡張症には「肺NTM症」という、結核菌とは異なる抗酸菌による感染症を合併することがあります。こうした患者さんについては、今回の臨床試験で十分な情報が得られておらず、慎重な判断が必要です。

臨床試験では肺炎の明らかな増加は確認されませんでしたが、長期間使用した場合の安全性については、今後も確認が必要です。

まとめ:気管支拡張症の治療に新しい選択肢

ブレンソカチブは、細菌を直接攻撃するのではなく、過剰な好中球性炎症に関わる酵素の働きを抑える、新しいタイプの治療薬です。

気管支拡張症では、感染を防ぐための炎症が、行き過ぎることで気管支を傷つける場合があります。その悪循環を弱め、増悪を減らそうというのが、この薬の考え方です。

ただし、排痰法や感染症の管理といった従来の治療が不要になるわけではありません。

新しい薬の効果と限界を正しく理解し、一人ひとりの患者さんに合った治療を選ぶことが大切です。

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