診療のご案内

Medical Treatment Guide

ご家族やパートナーから,「大きないびきがうるさい」とか,
「寝ているときに息がとまっているよ」などと言われたりすることはありませんか?

もしかしたら睡眠時無呼吸症候群(SAS)かもしれません。
SAS実はいろいろな体調不良とも関連しています。
さらにSASによって起こる日中の眠気が,ときに悲惨な事故にもつながることが知られています。

たかがいびき,されどいびき。よく見かけるけど,ちょっと怖い病気でもあるのです。

Q.なぜいびきがでたり,呼吸がとまったりするの?

鼻からのど,その少し先の気管支あたりまでの空気の通り道のことを,「上気道」と呼びます。

この上気道が何かの原因で狭くなると,吸った空気が通りづらくなり,上気道の粘膜や筋肉が振動します。

この振動音がいびきです。上気道の部位の中で特に軟口蓋が振動しやすく、ほとんどのいびきはこの部分が原因とされています。

正常でもあおむけに寝ると重力がかかるうえに,眠っていると筋肉がゆるんで気道が狭くなります。

普段いびきをかかない人でも,寝る前にお酒を飲んでいたり,疲れがたまっていたりすると,筋肉のゆるみがつよくなって,いつもより上気道が狭くなります。

狭いところを空気が通ると軟口蓋の周辺がふるえて,いびきにつながります。

Q.SASの症状って,どんなものがあるの?

SASの症状は寝ているときに目立ちますが,実は日中の起きている時間帯にも,SASによる症状が現れている場合があります。

■ねているときの症状
1)大きないびき
2)いびきをかいたあとに呼吸が止まる(無呼吸)
3)突然息が苦しくなって目が覚める
4)夜間に何度もトイレにおきてしまう

■おきているときの症状
1)寝起きの頭痛やのどのかわき
2)日中のだるさや,昼食後のつよい眠気,会議中や運転中のぼんやり感
3)集中力や記憶力の低下
4)気分がすぐれない

こんな症状がいくつもあてはまっている場合には,SASを疑って検査をうけることをおすすめします。

Q.SASになりやすい人ってどういう人?

SASを起こす患者さんでは,鼻や口のまわりの空気の通り道がなにかの理由で狭くなっていることが多いです。

・肥満により首まわりが太くなり,空気の通り道である気道を塞いでしまう。
・舌が大きかったり,扁桃が大きかったりすることで気道を塞いでしまう。
・鼻と喉の境界部分にあたる軟口蓋が垂れ下がり,それが気道を邪魔してしまう。
・もともと顎が小さいなどの理由で,気道自体がせまい,あるいは小さい。
・鼻の空気の通り道が曲がっている。

これらの原因があったり,かさなったりするとSASにつながりやすいといえます。

Q.自分がSASかどうか心配です。どうやったら診断できるの?

睡眠中に呼吸が止まったり(無呼吸),呼吸が弱くなってのどから肺への空気の流れが弱くなった状態(低呼吸)が,1時間に何回起こっているのかを調べます。

1時間にこの無呼吸や低呼吸が5回以上ある場合「睡眠時無呼吸症候群」と診断します。この1時間あたりの回数を無呼吸低呼吸指数(AHI:Apnea Hypopnea Index)といいます。この数値が高ければ無呼吸や低呼吸が多いことになるのでより重症です。

ご自宅で簡単にAHIを測ることができます。当院にご相談いただいたのち,検査機器をご自宅までお届けします。スクリーニング検査は,パルスオキシメータのセンサー部分を指に装着して眠るだけなので,圧迫感などの違和感もほぼありません。いつもの睡眠を妨げることなく正確に測定することができます。

検査費用は3割負担の方で,3000円~4000円です。検診結果などをおもちでない場合には,ほかの肺や心臓の異常がないか,一般的なレントゲン,心電図検査などをチェックする必要があるため,別途検査費用がかかります。

※検査の注意点 簡易検査では,リラックスした状態で, 4時間の睡眠記録が必要です。そのため途中で何度も目が覚めたり,検査機器が外れたりした場合,正常に計測されないことがあります。

Q.いびきかくだけなら,別にほっといてもいいんじゃない?

SASは高血圧や糖尿病,心疾患のリスクにつながることが知られています。SASでは呼吸が弱くなるため,体の中の酸素が下がってしまいます。低酸素では,「交感神経」が刺激されます。
 

交感神経が刺激されると,心臓の脈が速く強くうつようになり,同時に血管も収縮して血圧が高くなります。実は高血圧の患者さんのなかには,この SASが隠れている場合があります。もともと高血圧の患者さんにSASが合併すると,血圧はさらに高くなります。

交感神経の刺激は,血糖値上昇につながり,これは糖尿病を悪化させるリスクとなります。また交感神経の緊張は心臓の負担を増やして不整脈を誘発したり,心不全を悪化させたりします。

血圧の上昇や糖尿病の悪化によって,血管は固くなります。動脈硬化です。動脈硬化がおこると血管は,古い水道管のように中が狭く,詰まりやすくなります。心臓の血管がつまれば心筋梗塞,脳の血管がつまれば脳梗塞になります。

実際にSASの患者さんは,正常の方と比べて,心筋梗塞や狭心症,脳梗塞などの心血管病の発症が2〜3倍も多いことが知られています。さらにSASの適切な治療を受けるとこれらの発症が減少することもわかっています。

だからいびきはほっといてはいけません。自分がSASであるかどうかを知ることはとても大切です。もし重症のSASであったら,しっかりと治療を受ける必要があります。

Q.SASとわかったら,どういう治療をうけるの?

「CPAP(シーパップ)療法」を行います。

正式名称は「経鼻的持続陽圧呼吸療法:Continuous Positive Airway Pressure」です。

閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)に有効な治療方法として現在世界で最も普及している治療方法です。マスクをつけて空気を送り込むことで,狭くなった気道を広げて,肺までしっかりと空気を届けることができます。

マスクをつけて眠るのは,最初はなれないかもしれませんが,多くの方がうまく使いこなすことができます。

SASの使用初期にしばしばみられる問題点としては,
空気もれが気になる,鼻が詰まる,鼻水が出る,口が乾く,お腹が張る,目が覚めてしまう,耳が痛い,眠れないなどなどが挙げられます。マスクや圧の調整などで対応します。

 

Q.検査や治療には,どれくらい費用がかかるの?

SASの検査や治療には,健康保険が適用されます。ただしSASには高血圧・糖尿病・心不全・不整脈などの合併症を伴うことがおおいため,これらについても併せて検査が必要となる場合には,別途検査費用が生じる場合があります。

ご自宅での簡易検査では診断がつかない場合には,入院での終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査を行う場合があります。これについては当院では実施できないため,総合病院など入院が可能な施設へのご紹介をいたします。

 

【検査費用 3割負担の方の一例】

簡易検査              約3,000円

その他初診料がかかります。レントゲンや心電図検査が必要な場合には,別途検査費用がかかります。

入院での終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査    3万~5万円程度かかりますが,医療機関によって異なります。

 

【治療費用 3割負担の方の一例】

CPAP治療を続けるには定期的な外来受診が必要になります。

CPAP治療           月5,000円程度

★SASと事故について

2003年に起きた山陽新幹線の運転士による「居眠り運転」で,「睡眠時無呼吸症候群:SAS」が注目されるようになりました。運転士が居眠りをした状態で,新幹線が8分間も時速270kmの速さで疾走していたことがわかり,大きなニュースとなりました。幸い人身事故にはつながりませんでしたが,自動制御装置でとまっていなければ,重大な事故につながっていたと予想されます。

実は多い睡眠障害による事故
睡眠時無呼吸症候群では,日中の耐え切れない眠気や,日々感じるけだるさ,頭痛などは、生活に支障を来す症状を起こすことがあります。新幹線の事故以外にも,2012年の首都高速湾岸線での死傷事故,2014年の北陸自動車道での死傷事故にくわえ,静岡市の身近なところでは2020年11月にも富士宮市の西富士道路での死傷事故がおこっています。

患者さん個人では解決できないような「睡眠障害」であることを,患者さん自身が気づかずにいる場合,このような事故につながりかねません。「自分が気をつけて,気を引き締めればなんとかなる」は大きな間違いかもしれません。気になる症状がある時は,早めに検査や治療を受けられるようおすすめします。

★SASと高血圧について

3種類以上の高血圧のお薬をのんでも,なかなか血圧がさがらない状態を,「治療抵抗性高血圧」と呼びます。一般的な高血圧の患者さんと比べて,脳出血や脳梗塞,心臓発作によって死亡してしまうリスクが高いことがわかっています。

高血圧患者さんの1〜3割が「治療抵抗性高血圧」といわれています。お薬だけではよくならないため,日常生活の改善にとりくむ必要があります。糖質や塩分,アルコールの摂取を控えたり,適切な運動で体重をしっかりと管理したりといった努力が必要です

おもいのほか知られていませんが,ワクチンの痛み止めや頭痛,腰痛にたいしてつかう解熱鎮痛剤や,漢方薬でも血圧をあげる場合があります。そのほかの重大な原因のひとつとして,睡眠時無呼吸も高血圧に大きく関わっています。

無呼吸状態から呼吸が再開するときに,体は寝ている状態ですが,脳は一時的に起きた状態になり,睡眠が中断されます。本来ねている間には「副交感神経」という,体を穏やかにたもつ神経が働いていますが,これにかわって「交感神経」という体を活発にうごかす神経がが働き,その結果血圧が上昇していきます。

「無呼吸」と「呼吸再開」を繰り返してしまうと,そのたびに急な血圧変動がおこってしまい,心臓や血管に負担をかけます。また無呼吸によって全身は酸素が足りない状態となり,これも心臓や血管に大きな負担をかけることにつながります。

こういった状態がつづくと,動脈硬化や狭心症,心筋梗塞といった心疾患の原因につながっていきます。実は睡眠時無呼吸症候群は,眠くなるだけの(それも大変ですが)病気ではなく,けっこう怖い病気なのです。

★SASと脳卒中について

脳卒中は,がんや心臓病,肺炎につづいて,日本人の死因の第4位とされており,あなどれない病気です。脳卒中では体のマヒなどの後遺症が残ることが多く,日常生活に支障がしょうじたり,寝たきりになったりすることも多いのが特徴です。65歳以上で寝たきりの人の原因の1位は脳卒中という報告もあります。

脳卒中は,脳の血管が破れる「脳出血」と,脳の血管がつまる「脳梗塞」があります。

いずれも健康な人が発症することおおくありません。脳出血の場合は高血圧によってもろくいたんだ動脈が破れることでおきます。脳梗塞は高血圧によってできた動脈が傷つき,徐々に中が傷んでいき,古い水道管のように狭くなることで発症します。

血管がもろくなったり,狭くなったりする最大の原因は高血圧です。睡眠時無呼吸は高血圧の原因となるため,脳卒中にもつながりやすいのです。実際に睡眠時無呼吸症候群の症状が重いほど,脳卒中の発症リスクも高くなるといわれています。

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