院長コラム
Director's column
新しいお札の主役たち,特に北里柴三郎と結核の関わりについて!
Q.北里柴三郎って・・・名前は聞いたことがあるけど・・・誰??
北里柴三郎は日本を代表する細菌学者の一人です。結核菌を発見したロベルト・コッホの弟子でもあります。北里は破傷風菌の純培養に成功し,破傷風毒素に対する血清療法も確立しました。これはとんでもない業績です。またペスト菌を発見したことでも知られています。北里柴三郎の名前は「キタザト」や「キタサト」と読まれます。これは彼が留学したドイツで「キタザト」とみんなに呼んでもらうために,署名を「Kitasato」としたことに由来しています。
★結核予防への貢献
明治,大正の時代,日本では結核で死亡する者は1年間に十数万人に達していました。結核は日本人が亡くなる原因の圧倒的1位を占めていて,人口10万あたりの死亡率は200を越えていたのです。しかも患者や死亡者は青年に多く,日本の国力を低下させる結核は国民の衛生上の最大の課題でした。
同時期のイギリス人医師ベンジャミン・ホブソンの著書には「英米では病死者100人のうち30人は結核による」と記されており,結核は世界的にも大きな脅威でした。しかし当時はまだ結核が感染症として理解されていませんでした。
そんな中1882年(明治15)にドイツのロベルト・コッホが結核菌を発見しました。北里は1886年(明治19)にベルリンのコッホ研究室に留学し,破傷風菌の純培養や血清療法の発見など,大きな成果を挙げました。北里は皇室から結核治療研究のために金一千円(現在の約400万円)を下賜され,留学を1年延期し結核について学んだのち1892年(明治25)年に帰国しました。翌年に福沢諭吉(!)らの援助により,結核専門病院「土つくし筆ヶ岡養生園」を東京・白金に開設し,そしてその後1913年(大正2)に日本結核予防協会を設立しました。1923年(大正12)には日本結核予防協会は財団法人となり,渋沢栄一(!)が会頭に,北里柴三郎が理事長に就任しました。この協会は全国各地に地方組織を設立し,結核対策や普及啓発活動を推進しました。さらに北里は日本結核病学会(現在の日本結核・非結核性抗酸菌症学会)を設立し,初代会長に就任しています。このように日本の結核医療の歴史に燦然とその名を輝かせる超有名人なのです。お札に出てくる偉人が続々登場しますね。ちなみに同時期,樋口一葉(!)は結核で命を落としています。
★結核への取り組み
日本における結核の死亡率は,徐々に下がってきていますが,1980年代では,都市化の進展や結核が猛威を振るっていた時代に感染した人々が高齢化して発病するようになり,結核罹患率の低下が鈍化しました。1999年には「結核緊急事態宣言」が発せられています。
結核罹患率が人口10万対10以下の国を低まん延国といいます。欧米の先進国は以前から低まん延国になっていますが,日本はなかなか10以下になることができておらず,実はつい最近までまん延国の仲間だったのです。2021年にようやく人口10万人あたり9.2と低まん延国入りを果たしました。それでも2021年には11,519人の患者が報告されており,まだまだ油断はならない状況です。
★結核の感染メカニズム
結核患者さんのくしゃみや咳によって体の外に吐き出された結核菌は,なかなか落下せず空気中を漂い続けます。この漂っている結核菌を肺の奥深くまで吸い込んでしまうと感染してしまいます。
感染しても多くの健康な人の場合は,免疫の力で結核を抑えることができますが,吸い込んだ菌が非常に多い場合や,小児や高齢者,はたまた何かの病気などで免疫が低下している場合には発病し「結核症」に進みます。結核菌は肺で暴れることが最も有名ですが,肺以外にも病変を作ることがあります。体の色んな場所のリンパ節や骨,関節,腎臓,脳などさまざまな臓器に広がることがあります。
★結核の治療法
かつて結核は人の命をうばう恐ろしい病気でしたが,現在結核の治療は確立されています。
標準的な治療はリファンピシン,イソニアジドという2種類を軸として,最初は4種類,数ヶ月おいて続いて2~3剤を合計6カ月間使います。中途半端に薬を使うと,結核菌が薬に対して抵抗力をもち,薬剤耐性菌にパワーアップしてしまいます。処方された薬を規則正しく最後まできちんと服用することが重要です。
★結核予防と早期発見
結核を防ぐためには,予防接種や潜在性結核感染症(体の中に潜んでいて,まだ暴れていない状態)の治療が非常に有効です。
また結核を発病した人を早期に発見して,周囲に広げない内に早期に適切に診断し,治療に結びつけることが,感染拡大を防ぐために非常に重要です。
結核は今も世界の最大級の感染症です。これは日本も例外ではありません。正しい知識を持ち早期発見・早期治療を心がけることが,結核予防への第一歩です。
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