院長コラム

Director's column

インフルエンザワクチンが、鼻から投与できるって?!

経鼻ワクチン「フルミスト」の効果と特徴について

1. フルミストとは?

フルミストは鼻に噴霧するだけでインフルエンザを予防できる経鼻インフルエンザワクチンです。従来の皮下注射ワクチンと異なり,フルミストは「弱毒生ワクチン」というタイプのワクチンです。

インフルエンザウイルスの力をすごーく弱めた生きたウイルスを使っており,接種するとごくごく軽い感染のような状態を引き起こして免疫を作ります。このため接種後には鼻水や軽い風邪症状が出ることもありますが,インフルエンザにかかるわけではありませんし,他の人に感染することもありません。

2. フルミストと従来のインフルエンザワクチンの違い

フルミストと従来の皮下注射の不活化インフルエンザワクチンの違いは,使われるウイルスの種類と働き方にあります。 

従来のインフルエンザワクチンは,ウイルスを完全に不活化したものを使用しています。注射すると体はIgG抗体という兵隊を作ります。IgGは主に血中で作り出され,インフルエンザウイルスが実際に体内に侵入したときに戦ってくれます。その結果重症化を防ぐ効果が期待できるわけです。しかしこのワクチンは血中で活躍するので,実際にインフルエンザウイルスが最初に付着する粘膜での防御効果(感染予防効果)が弱いという問題点があります。そのためインフルエンザの感染や発症そのものを防ぐ力は少ないとされています。

一方フルミストは鼻から吸入すると,鼻や喉の粘膜表面でIgAという抗体を作り出し,鼻や喉に入ってきたウイルスが体内に入り込む前の粘膜の段階で捕まえてしまうことで,感染そのものを予防する効果があります。またフルミストの接種後にはIgG抗体も生成されるので,従来の不活化ワクチンと同じように重症化を防ぐ効果も期待できます。フルミストは従来の不活化ワクチンとは異なり,細胞性免疫と呼ばれる仕組みを使って,少し異なるタイプのインフルエンザウイルスに対してもある程度効果が期待できるのです。

 

3. ウイルス株の選定方法の違い

フルミストと日本のインフルエンザワクチンでは,使う「ウイルス株」を選ぶ方法に違いがあります。インフルエンザウイルスは毎年少しずつ変わるため,去年のウイルスがそのまま今年も流行するわけではありません。このため世界保健機関(WHO)は,毎年どのウイルスが流行しそうかを予想し,2月ごろに「次のシーズンのワクチンにはこのウイルスを使ってください」というリストを発表します。このリストは「WHO選定株」と呼ばれ,世界中のメーカーがこれをもとにワクチンを作ります。

フルミストはこのWHO選定株をそのまま使ってワクチンを作りますが,日本のワクチンはWHOのリストを参考にしながら,国内で作りやすいウイルス株を選ぶことがあります。たとえばWHOが「A型インフルエンザの〇〇株を使ってください」と指定しても,日本では「A型の△△株」の方が製造効率がよいと判断されることがあるのです。そのため日本のワクチンとフルミストで使う株が少し違う場合もあります。

「じゃあ日本の株の方が効きそう?」と思うかもしれませんが,フルミストも十分な効果があります。WHO選定株は世界中で流行する可能性が高い株から選ばれているため信頼性が高いのです。またフルミストは,先程も記載したとおり,感染を防ぐ「IgA抗体」を鼻や喉で作ったり,型が少し違っても対応できる免疫も作り出せるため流行が完全に一致しなくても予防効果が期待できるのです。

4. 効果の仕組みと特に子どもにおすすめされる理由

フルミストは特に子どもや若年層に対して高い効果を発揮するとされています。これはインフルエンザに初めてかかるか,感染経験が少ない子どもは,鼻や喉の粘膜表面にインフルエンザウイルスを撃退するIgA抗体がまだないため,フルミストが鼻や喉でしっかりと弱い感染を成立させ,その結果強力な免疫を作ることができるからです。過去にインフルエンザ感染やワクチン接種の経験がある大人は,すでに持っている免疫によってフルミストのワクチンウイルスをすぐに排除してしまうため,そもそも感染が成立しにくく,十分な免疫がつきにくいことがあります。そのためフルミストは大人よりも子どもに効果的だと考えられています。

実際アメリカ疾病予防管理センター(CDC)はフルミストの対象年齢を49歳までとしていますが,推奨しているのは6か月から18歳の小児・若年者です。日本でも対象年齢は2歳から19歳未満とされており成人には推奨されていません。

 

5. だれにおすすめで,だれにはおすすめしづらいの?

フルミストの接種に適した人は,2歳から19歳未満の健康な子どもや若年者です。特に注射 が苦手な人や,一回の接種で済ませたい人に適しています。一方で以下の人々には接種が避けられています

1)免疫が低下している人(免疫不全患者や免疫抑制剤を服用している人など)

弱毒生ワクチンであるフルミストが感染を引き起こすリスクがあるため不適当とされています。

2)喘息や重い呼吸器疾患を持つ人

喘息を持つ子どもにフルミストを使用すると症状が悪化する可能性があるため,通常は不活化ワクチンの方が推奨されます。

3)授乳中の母親や免疫不全患者が近くにいる場合 

経鼻ワクチンは接種後の数週間程度,ワクチン由来のウイルスが鼻や喉の粘膜から排出されることがあるため,水平伝播(周囲にウイルスが広がる)リスクを避けるために使用を控えることが求められます。

4)卵アレルギー、ゼラチンアレルギーがある人

フルミストに含まれる成分にアレルギー反応を示す可能性があるためです。

6. 注意点と副作用

フルミスト接種後には軽い風邪のような症状が出ることがありますが,これはワクチンによって免疫が刺激されているために起こります。

経鼻ワクチンは軽い感染を引き起こすため,稀にインフルエンザ検査で「陽性」と出る場合がありますので,接種後すぐの診断には注意が必要です。その他アレルギー反応が出ることもあります。接種前に医師と相談し,アレルギー体質や喘息などの持病がないかを確認することが推奨されます。

7. 成人には皮下注ワクチン,子どもにはフルミストをおすすめ

成人には従来の皮下注インフルエンザワクチンが主に推奨されますが2歳から19歳未満の健康な子どもや若年者には,感染予防効果が期待できるフルミストもオススメです。フルミストは1回の接種で済むため,忙しい家庭でも接種しやすい利点があります。

まとめ

フルミストは注射の必要がなく,とくに小さな子どもにとって受け入れやすいインフルエンザ予防の選択肢です。従来の皮下注ワクチンと異なり,粘膜と全身の免疫を同時に高めることで,インフルエンザの感染予防と重症化予防の両方に効果を発揮します。

ただし免疫が低下している人や喘息患者,授乳中の母親が周囲にいる場合には不適当とされるため,医師と相談しながら最適な接種方法を選ぶことが重要です。

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