院長コラム
Director's column
結核の現状
Q.結核って、今さら?
結核は、かつて日本に深刻な影響を与えた感染症です。戦後医療体制の整備とともに結核患者はだんだんと減少し、2021年に日本は、人口10万人あたりの罹患率10人以下である「結核低まん延国」にようやく仲間入りとなりました。
しかし、結核は過去の病気では実はないのです。外国からの移住者の増加や、新型コロナウイルス感染症の影響などもあり診断が遅れるケースが増え、結核の再拡大が懸念されています。
Q. 足立区での集団感染ニュースって耳に届いていますか?
2024年9月、東京都足立区の中学校で11人が結核に感染し、そのうち2人が発病したというニュースはご存知ですか?幸いにも入院が必要な結核患者さんはいなかったようです。この感染は、7月にある生徒が「感染性結核」と診断されたことをきっかけに判明しました。結核は感染しても発病しないケースも多くあります。潜伏期間は半年から2年ほどにも及ぶ場合があるほか、ずっと発病しないまま寿命を迎えるようなこともあるのです。
さらに発病しても他の人にはうつさない結核と、人にうつすリスクの高い感染性がある結核にわかれます。前者は入院の必要はないですが、後者は入院が必要になります。
幸いこのニュースでは、外の人に対して感染力のある(人にうつしてしまう)結核患者さんが次々に発見されたということはなかったようですが、学校内での結核感染が集団で発生したことは地域に衝撃を与えました。この事例は、結核が今でも私たちの生活に影響を与えうることを示しています。
Q. 結核の歴史と現在の状況
昭和20年代までは日本で結核は死亡原因の1位でした。当時は医療体制が不十分で、特に戦時中や戦後は多くの命が結核によって失われました。しかしその後の医療技術の進歩により結核患者数は減少し、2021年には結核罹患率が10万人あたり10人以下となり、国際的に「低まん延国」として認められるようになりました。
とはいえ結核は完全に消えたわけではありません。特に2024年には、すでに東京都の新規結核患者数が前年の総数を超えるという事態が発生しており、結核の再拡大が心配されています。この背景には新型コロナウイルスによる「過少診断」があると考えられています。つまり症状が軽い人が医療機関を受診しなかったことで、本来だったら発見されるはずの結核が発見されていない、診断されていない可能性が挙げられます。実際に結核の診断が遅れたケースも増えています。
Q. 最近の結核事情について、もうちょっと教えて?
結核罹患率は10万人あたりの人数で表記されます。当時結核の特効薬として喧伝されたストレプトマイシンが国内製造されるようになった直後1951年が過去最高値で、10万人あたり約700人だったと記録されています。当時は年間十数万人が命を落としたとされており、文字通り亡国病といわれていました。
前述の通り結核の治療方法の確立と戦後復興で医療水準や生活環境が改善し、2021年には「低まん延国」の仲間入りを果たしたわけです。
今年の「結核登録者情報調査年報」で報告された2023年の結核罹患率は、人口10万人あたり8.1という結果でした(左図)。
昭和初期までの大流行と比較すると、だいぶ低い数値になってきています。
しかしいまだ年間1600人が亡くなっている現状があります。これはやはり決して侮れませんよね。
ちなみに都道府県別にみると、もっとも結核罹患率が低かったのは岩手県で3.6人でした。
最多の大阪府では13.1人、第2位の大分県では12.2人です。岩手県とは3倍以上の開きがあり地域差が大きいことがわかります。
Q.若者の結核が増えている?!
20歳以上30歳未満の年齢層では、前年比34%増と極めて大きく増加しています。若い人の間で結核がまん延しているのでしょうか?そんな話、ご自身のまわりのコミュニティではそれほど聞こえてこないのではないでしょうか。実はこの現状は、外国出生者の結核が増加していることが大きな要因です。
外国生まれの新しく登録された結核患者数は1,619人で、前年の1,214人から405人(33.4%)と大幅に増加しています。これは2019年の新型コロナウイルス感染症流行の患者数である1,541人を大きく超えています。
また新しく登録された結核患者さんにおける外国生まれの方の割合も16.0%と、前年の11.9%から4.1ポイント、大幅に増えています。とくに20~29歳では外国生まれ新登録結核患者数は前年に比べて282人(46.8%)増加して884人、30~39歳においても61人(22.3%)増加して334人となっています。
結核の潜伏期間は半年から2年以上にわたることもありとても長いことから、外国で感染した人が、そうとは気づかずに日本へ入国後、しばらくしてから結核を発病してしまうという結果がこの現状につながっています。
先進国ではすでに低まん延国の水準に達した国も多いです。日本も世界保健機関が目指す「結核撲滅」を目指しています。しかし東南アジアではまだ結核罹患率が3ケタを超える国も多いのです。高まん延国から入国して、その後日本で発病する人の絶対数が多いため、この対策を国全体ですすめていく必要があります。
日本が結核の低まん延国を維持するためには、外国からの移住者に対する結核の早期発見と治療が重要な課題となります。
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