院長コラム
Director's column
夏の長引く咳、その正体は?「過敏性肺炎」という呼吸のミステリー
今日はあまり知られていない「呼吸のミステリー」に迫ってみましょう。
特に夏に問題となることが多いミステリーです。
「過敏性肺炎」という病気、ご存じでしょうか?
これは私たちがよく耳にする細菌やウイルスによる肺炎とはまったく異なります。
簡単にいえば,アレルギーの原因物質(抗原)を吸い込むことで肺に炎症が起きる病気です。
まるで花粉症のように日常の中にひっそり潜む「犯人」が、肺をじわじわと刺激し続けるのです。
この「犯人」の姿がなかなか見えづらいため,原因不明の肺炎として,クリニックや病院の医師をなやませるのです。
夏型過敏性肺炎──日本で最も多いタイプ
特に日本で多いのが、「夏型過敏性肺炎」と呼ばれるタイプです。その原因は、高温多湿の家屋に繁殖するトリコスポロンというカビ。このカビを吸い込むことで、乾いた咳や微熱、息切れなどの症状が現れます。
毎年夏になると「風邪が長引くなあ」と思いながら、実はこのカビが肺を攻撃していた――そんなケースも少なくありません。
報告によると過敏性肺炎全体の約75%をこの夏型が占めています。
古い木造家屋や,風通しのわるい家で,脱衣所はカビっぽかった,畳の裏はカビだらけだった・・・。
こんなことが原因になっていたと,色々調べてようやくいきつくなんてことも,少なくないのです。
【草ヶ谷医院流ミステリーファイル】
実際にこんな患者さんがいらっしゃいました。
「先生,旅行で数日間家を空けているときだけ,咳がピタッと止まるんです。
でも自宅に戻るとまたゲホゲホと…。まるで家に原因があるみたいで。」
この「家を離れると症状が改善する」という現象は,過敏性肺炎の大きなヒントになることがあります。
ご自宅の環境に“犯人”が潜んでいるサインかもしれません。
さらに冬に活躍する羽毛布団やダウンジャケットが原因になることも。
鳥の羽毛やフンに含まれるタンパク質がアレルギーを引き起こし,慢性的な過敏性肺炎を発症することがあります。
引っ越しをしてからしばらくしてなんだか長引く咳が出始めたことをきっかけに,この過敏性肺炎の診断にいたった患者さんの原因は,新居である自宅から300mほど離れた場所にある,鳩の飼育小屋でした。そんな患者さんの診断に立ち会ったこともあります。
そういえば,ミカン農家さんの過敏性肺臓炎の方もおられました。毎年みかんの収穫が終わって,倉庫に 立ち入る時期になると妙に咳がでたり,熱がでたり,いきぐるしくなったり・・・・と。
あまりに特徴的な症状経過から,過敏性肺炎を疑ってお邪魔すると・・・倉庫の中にはカビが付いたミカンが大量に・・・。お仕事を簡単に変えるわけにもいかないため,すぐにミカンから離れるわけにもいかず,治療には難渋してしまう・・・なんてことも!
こんな症状は要注意
過敏性肺炎の主な症状は以下の3つです。
1) 痰の絡まない「乾いた咳」
2)階段を上ったときや,重い荷物をもったときなどの「息切れ」
3)数時間〜数日続く「発熱」
どれもこれも,単なる風邪と見分けがつきづらいこともあります。でもこの過敏性肺炎は,ある特定の行動で良くなったり,悪くなったり,長引いたり,突然治ったり・・・と,風邪とは違う経過をたどることが多いので,最初に「ピン!」と来るかどうかが大きな分かれ目になります。
さらに症状が急に出る「急性型」と,何か月〜何年もかけて進む「慢性型」があります。
特に慢性型では、気づかないうちに肺線維化(肺が硬くなる状態)が進むことがあり,進行すると元の肺には戻りにくくなるため,早期発見がとても大切です。
診断は“聞き込み”から
診断の第一歩は、皆さんのお話を聞くことです。我々はこの過敏性肺炎を疑ったときには,
・どんな家に住んでいるのか
・症状がいつ悪化するのか
・どんな仕事や趣味があるのか
まるで名探偵のように詳しく「聞き込み」を行います。
その後血液検査(アレルギー反応の有無を確認)や,場合によってはご自宅までお邪魔して,原因になるカビなどが住んでいないか,確認をしにいくこともあります。これを「環境調査」といいます。
「環境除去試験」といって,数日入院して普段の環境から離れたときに症状が改善するかを確かめることもあります。これが決め手になることも少なくありません。入院中は改善したのに,自宅に戻ったらまた発熱する,症状が出るなんてことも,この病気ではよく見られます。
治療は「原因から離れる」こと
治療の基本は原因物質を徹底的に避けることです。
カビが原因の場合には,エアコンや換気扇を徹底清掃,除湿や換気を心がける,カビ掃除はプロや家族に頼む(マスクなしで戦うのはNG!です。)ときに加湿器の水がカビで汚れていたなんてケースもあります。
羽毛が原因の場合,自分だけでなく家族の羽毛布団・ダウンも全撤去, 部屋全体を清掃し,アレルゲンを除去することが必要です。
それでも症状が重いときや改善しないときは,呼吸器内科専門医やアレルギー科専門医のもとで,ステロイド薬(炎症を抑える)や,抗線維化薬(線維化を進めない)を使用します。
日本の研究によると,日本の過敏性肺炎の有病率は欧米よりも高い可能性も指摘されています。原因を早期に特定し対処することで,多くの方が改善・回復に向かいます。
咳を甘く見ず,相談を!
「夏風邪だろう」と見過ごした咳が,実は過敏性肺炎だった――
そんなことにならないように,咳が長引くとき,家や職場で変化があるときは、ぜひ一度専門医にご相談ください。
呼吸器内科・アレルギー専門医が診療する当院でも,過敏性肺炎の診断・治療に対応しています。
皆さんの呼吸がいつも健やかであるよう、私たちは全力でサポートいたします。
気になる症状があれば、お気軽にお声かけくださいね。
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