院長コラム

Director's column

6月から始める熱中症対策について

いよいよジメジメ,ムシムシとした暑い日が少しずつ顔を出てきましたね。熱中症の重篤化を防止するため,労働安全衛生規則が改正され令和7年6月1日から施行されました。この改正により,事業者には以下の措置が義務付けられます。

 

1 熱中症を生ずるおそれのある作業(※)を行う際に、

 ①「熱中症の自覚症状がある作業者」

 ②「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」

がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め,関係作業者に対して周知すること

2 熱中症を生ずるおそれのある作業(※)を行う際に、

 ①作業からの離脱  ②身体の冷却  ③必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせること

 ④事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等

など,熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め,関係作業者に対して周知すること

※ WBGT(湿球黒球温度)28度又は気温31度以上の作業場において行われる作業で,継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるもの

職場でも,家庭環境でも,教育現場でも,改めて熱中症対策を振り返っていきましょう。

◆熱中症は梅雨どきと真夏に要注意

まだ6月になったばかりですが,すでに何回かは夏日がみられています。今年も熱中症にはしっかりと対策していきましょう。梅雨の晴れ間や,梅雨明けの蒸し暑くなった時期から熱中症は増え始めます。この時期は身体がまだ暑さに慣れておらず,上手に汗をかくことができません。熱が体にこもりやすく,熱中症につながります。今が暑さになれるちょうどよい時期です。早めの準備が大切です。事前の一手は事後の百手に勝ります。準備は早いに越したことはありません。

熱中症救急搬送事例(東京23区)

東京消防庁HPより

過去5年間の東京都内における熱中症による救急搬送人員数です。毎年増加していき,昨年は6月~9月までの間に,実に7993人が搬送されています。毎年熱中症対策がさけばれているなか,残念ながら搬送数は増えているのが現状のようです。

月別で見ていくと,例年6月からは徐々に搬送数が増えていき,7月~8月に向けてピークを迎えることが多いようです。

7月~8月の日中など,最高気温が高くなった日にも熱中症の患者数が増加します。

熱帯夜が続くと夜間も体温がさがらないため,熱中症が起こりやすくなることも知られています。熱中症による救急搬送は,真夏日(最高気温が30度以上)になると発生し始め,猛暑日(35度以上)では急激に増加します。

◆熱中症を引き起こす条件は?

「環境」と「体」と「行動」によるものが条件としてあげられます。「環境」要因は,気温や湿度が高い,換気(風)が弱いなどがあてはまります。「体」の要因は,強い強度の労働や運動などの「行動」によって体内に熱が生じたりすること,あるいは暑い環境に体が十分に対応できないことなどが挙げられます。これらが単独でも,また重なったりすることで熱中症が引き起こされる可能性があります。

COVID-19診療の手引 第9版より

【環境要因】気温・湿度が高い,風が弱い,締め切った室内,風通しの悪い部屋,クーラーの故障,強い日差し,急激に暑くなるなどなど・・・。作業現場などでは,管理者がしっかりと管理をする必要があります。

【体の要因】高齢者や乳幼児,下痢や発熱患者など元々脱水状態,二日酔いや寝不足などの体調不良などが引き金になってしまうケースもあるので,日々の体調管理が重要です。

【行動要因】激しい運動,慣れない運動,長時間の屋外作業気温の高い室内での作業など・・・。大丈夫と思っている行動が,実は熱中症につながることがあり,要注意です。

◆熱中症の症状と分類

熱中症にはさまざまな症状があるため,それぞれに病名がついています。

熱失神

暑い環境下で,皮膚血流が著しく増加すること,さらに多量の発汗によって脳への血流が一時的に減少する,ため立ち眩みが生じることをいいます。

熱けいれん

汗で失われた塩分不足で生じる筋肉のこむら返りや筋肉の痛みをいいます。

熱疲労

脱水が進行し,全身のだるさや集中力が低下した状態です。頭痛や気分の不快,吐き気,嘔吐などが起こり,悪化すると致命的な「熱射病」につながります。

熱射病

中枢神経症状(脳の異常による障害)や腎臓・肝臓の機能障害,血液凝固異常(血液が固まったりする異常)まで生じた状態で,普段と違う言動やふらつき,意識レベルの低下や全身のけいれんが現れます。

実際の現場ではこれらの状態が混在しておこるため,熱中症が発生したときに は,重症度に従い表1のように,最近では軽症(Ⅰ度),中等症(Ⅱ度),重症(Ⅲ度)に分類しています。

熱中症対策 「暑熱順化」作戦

5~6月でも最高気温が25℃以上の夏日などはときおり見られます。このタイミングは暑さにまだ体が慣れていないため,思わぬ体調不良につながる場合があり注意が必要です。

「暑熱順化」は,体を徐々に暑さに慣れさせることを言います。真夏の暑さへの準備といえるでしょうか。

運動や仕事などで体を動かすと体内で熱がつくられ,体温が上がります。体温があがると,体は汗をかくことや,皮膚の血管拡張させることで体表面から空気中に熱を逃がし体温を下げて調節します。この調節がうまくできないと体に熱がたまり熱中症につながります。体温調整がスムーズにできるように今の時期から徐々に体を慣れさせることが,「暑熱順化」です。「ちょっとだけ暑い場所」で「ちょっときつい」と感じる運動をすると,夏の暑さに備えて体をつくっていくことができるとされています。(Ikegawa et al., 2011; Goto et al., 2010)。

具体的な方法は,1日30分の運動を週に5回ほど,1〜4週間続けることがおすすめです。さらに運動のあとに牛乳でいえばコップ1〜2杯など,糖分やたんぱく質が多く入った飲み物や食べ物をとると,より効果的と報告されています。(Goto et al., 2010; Okazaki et al., 2009a; 2009b; 2009c)。

体力にあまり自信がない私のような人間や,中高年の方には「インターバル速歩」がおすすめです。

これは3分間,大股で腕をしっかり振って速歩き(かかとから着地)3分間ゆっくり歩くというセットを, 1日に5回以上,週に4回以上を,4週間続ける方法です(Morikawa et al., 2011; Nemoto et al., 2007)。これくらいなら,ケガをしないように注意しながらできそうではないですか?

若くて体力のある方は,ジョギングや,ジムでのランニングマシンやエアロバイクなどが向いています。運動を始めて5分ほどたったときに心拍数(脈拍)が20代なら1分間に130回くらい,40代なら120回くらいになるくらいの強さで行うのが理想です(Garber et al., 2011; Karvonen, 1957)。

 

「ややきつい運動」の目安は最大酸素摂取量の50%程度とされていて(Garber et al., 2011),そのときの目標の心拍数は次の式で計算できます:

 

目標心拍数(拍/分)=(220 − 年齢 − 安静時心拍数)×0.5+安静時心拍数

※脈拍でもOKです。安静時心拍数は、座って静かにしているときに測った脈拍の回数です。

たとえば、20歳で安静時心拍数が60拍/分なら,

(220-年齢20-安静時心拍数60)×0.5+安静時心拍数60

=140×0.5+60=130で,目標心拍数は130拍/分になります。

なかなか難しいとは感じる程度の習慣ですが,出来ることから少しずつ意識していくのが大切です。無理をしても長続きしないので,出来る範囲でゆっくりとやっていきましょう。

◆WGBT(暑さ指数)を見直してみましょう!

「気温」,「湿度」,「日射・放射」,「風」といった,体温に与える影響の大きい項目をもとに算出された数字です。WBGTは熱中症のリスクを判断するのに有用で,運動時や作業時はもちろんのこと,日常生活での指針としても活用されています。

本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針 ver.4」(2022)より
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