院長コラム

Director's column

これからのコロナウイルス感染症

政府は5月8日から新型コロナウイルス感染症の取り扱いを,季節性インフルエンザと同等の5類に見直しました。
これまで行ってきた様々な政策や措置についても大きく方針が変わります。

またWHOのテドロス事務局長も5月5日に,「新型コロナウイルス感染症を巡る緊急事態宣言を終了する」と記者会見で発表しました。
この宣言は2020年1月30日に出されてから実に3年3カ月続いていましたが,ついに一つの大きな節目を迎えたことになります。

私個人としては,このコロナ禍を当初静岡市内の総合病院の呼吸器内科医として迎えました。流行初期は非常に怖い肺炎をおこすウイルスで,重症患者さんも多く診療しました。
夜間に病院に呼ばれたときは,ドキドキしながら向かったことを覚えています。
ドラマのようですが,当時はそれほど恐ろしいウイルスでした。

2021年春に静岡市清水区で当院を開業したころにはオミクロン株の流行が始まっており,この頃からはいわゆる「風邪」に近い症状だけで治癒する方もおおくなってきました。1日100人を超える新型コロナウイルス感染症患者さんを診療して,途方にくれた日もありました。
このコロナ禍が一段落つくのはなんだか感慨深いものがありますが,これで本当におしまいとしてしまってよいでしょうか?

COVID-19の死亡率について

前述のとおり流行の初期には致死率5%という非常に重症度の高い感染症でした。実際に40代,50代の方が次々に人工呼吸管理を要する重篤な呼吸不全になったり,ECMO(エクモ)を実施するために静岡市内,あるいは静岡県内の別の病院に転院を依頼したりすることもありました。

2021年からワクチン接種が開始となり,続いて2022年からはオミクロン株が流行していくにつれて,致死率が少しずつ低下していくのが上の図からわかります。最近の日本での死亡率は0.22%となっています。
政府はこういった経緯もふまえて,この3年間の「新型インフルエンザ等感染症」という位置づけからついに「5類感染症」に移行すると決断したに至ります。

Q.コロナ禍は終わったの?

位置づけはたしかに「5類感染症」になりましたが,新型コロナウイルスが日本から無くなったわけでも,
今までよりウイルスの性質が穏やかになったわけでもありません。

昨年末から今年の1月~2月にかけておこった第8波では,実は過去最多の死亡者数であったことは記憶にとどめておくべきでしょう。過去1年間の死亡者数は4万人を超えており,これはいわゆる季節性インフルエンザの規模を大きく上回る数字です。致死率はたしかに下がっていますが,死亡者数は増え続けています。

まだ課題もいくつか残されています。第一に上記の通り年に数回の大規模な流行が起こり多くの死亡者が出ていること,第二には新型コロナウイルス後遺症,いわゆるLong COVIDの治療法が確立されていないなどが挙げられます。

これからも死亡者数を減らす,あるいは感染や感染後の後遺症を減らすためには,重症化リスクの高い人に対してはワクチン接種を定期的に行いながら,今までのような大規模な流行にならないようにある程度流行の兆しがみえてきたら,みんなで感染対策をおこなっていくという姿勢が重要といえます。

Q.5類感染症になると,生活はどうかわるの?

厚労省の参考資料をもとに,これからの対策がどのように変わるのかおさらいしてみましょう。

1)発生動向(どの程度流行しているのかを,どうやって確認するか)

厚労省の参考資料をもとに,これからの対策がどのように変わるのかおさらいしてみましょう。

1)発生動向(どの程度流行しているのかを,どうやって確認するか)
今までコロナ感染症患者さんを確認した各診療機関は,保健所に届け出を行ってきました。これからは予め決められた定点医療機関が毎週月曜日に患者数を届け出します。静岡市清水区では当院も定点医療機関の一つです。すべての患者数が把握されるわけではありません。どの程度流行しているのかは,実施される抗体保有率検査や,下水からのコロナウイルスの検出研究などから推測することになります。引き続き入院患者数や使用病床数などは観察されます。

2)医療体制(どの病院やクリニックが診療するのか)

これまで入院が必要な患者さんがいる場合には,行政が行き先を探したり,転院先を検討してくれたりしましたが,これからは各医療機関同士が通常の病気として扱います。
また「発熱等診療医療機関」のみでなく,広くクリニックや病院全体で診療をしていくことになります。
静岡市清水区では今まで80余の診療機関が対応していましたが,名目上はすべての医療機関で対応可能な状態を目指すことになります。

3)患者さんの外出制限や医療費について

■外出制限について

今まで患者さんは法律にもとづいて自宅待機や療養所への入所を義務付けられていましたが,これからは個人の判断になり明確な基準はありません。

ひとつの目安としては,新型コロナウイルス感染症ではおおむね症状がでる2日前から症状出現後7~10日の間は,他人へうつす可能性があることが参考になります。
とくに症状出現から3日間は感染性のウイルスの排出量が非常に多く,5日間たつと大きく減少することから,発症後5日間が他人へうつすリスクが高いことを意識するとよいでしょう。もちろんこの期間がすぎても発熱や咳などの症状が強い場合には,医療機関に相談するのが慎重なやりかたといえます。

学校保健安全法施行規則では「発症した後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまで」を新型コロナウイルス感染症による出席停止期間としています。

排出されるウイルス量は発熱やせきなどの症状が軽快するとともに減少しますが,症状軽快後も一定期間ウイルスを排出するといわれています。

ポイント

■ 症状の出現日は0日目!
■ 5日目までは人に移す可能性が高い!
■ 元気になったら6日目からは,他者へ配慮をしながら仕事や学校へ!
■6日目以降も熱や咳があれば無理しない!

■医療費について

5類への移行後,今後は発熱などの症状が出ている患者さんに対する検査費用のうち,自己負担分の公費支援は終了します。また各自治体が無料でおこなっていた検査キット配布事業も終了します。

外来医療費                                              厚労省の試算より作成

4)これからの感染対策

基本的な感染対策について,政府は一律の対応要請をとりやめました。
個人や事業者の判断にまかせるというというスタンスです。
今まで通り一辺倒にマスクをすればよい,とりあえずパーテションをつけとけばよいという対応は思考停止です。

感染対策がどの程度必要性がある状況なのか,それが人と人のコミュニケーションや経済活動,社会的な活動に適しているか,ずっと続けることができるのかといったことにも配慮して,感染対策に頭を使う必要があります。
みんなが3年間で得た知識が試されるというわけです。

<基本的感染対策の考え方>

【マスクの着用】

着用は個人の判断が基本。

病院や高齢者施設,あるいは混雑する電車内など,一定の状況ではマスク着用が推奨されています。

【手洗い】

手洗い等の手指衛生は,新型コロナの特徴を踏まえた
基本的感染対策として引き続き有効です。

【換気】

流行期では,高齢者などの重症化リスクの高い方は,換気の悪い場所や,
混雑した人混みは避けることが有効です。

【換気】

流行期では,高齢者などの重症化リスクの高い方は,換気の悪い場所や,
混雑した人混みは避けることが有効です。


5)ワクチンについて

新型コロナワクチンの追加接種について,厚生労働省は無料での接種を2023年度も継続する方針を提示しています。
重症化リスクの高い人などは年2回の接種を行うほか,重症化リスクの高くない人にむけても,年1回の接種を行う方針です。

すでに5月からワクチン接種が開始されていますが,9月からは重症化リスクの高い人の2回目の接種が開始される予定です。

Q.これからどのように新型コロナと付き合うべき?

5類感染症になっても新型コロナがなくなるわけでも,人から人にうつらなくなるわけでもありあません。
今後もきっと一定程度の流行は起こるでしょう。
また高齢者や基礎疾患のある人は,重症化して入院する場合もあります。

これからはわれわれ1人1人が,必要だと考える感染対策を実施するということになります。

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