院長コラム

Director's column

麻しん(ましん,はしか)が流行りはじめている?!

日本国内で麻しん(ましん,はしか)の感染者が増加していることがニュースになっていることをご存知でしょうか。2023年4月下旬にインド帰国後の30代男性が麻しんと診断され,その後同じ新幹線に乗っていた2人の方も5月上旬に麻しんと診断されています。同じ新幹線に乗り合わせただけなのに感染してしまうほど,実はとっても感染力の強いウイルスなのです。直近では6月11日に浜松市に住む30代の男性が「はしか」に感染したことがわかりました。静岡市も対岸の火事とは言っていられません。

Q. いまさらですが,麻しんとは?

いわゆる「はしか」のことです。年齢に関係なく感染する可能性があり,とても広い範囲にひろがっていく非常に感染力の強いウイルスによる病気です。ワクチンを打っていない方,いままで麻しんにかかったことがない方が感染すると,ほぼ100%症状がでます。合併症を引き起こしときには死に至ることもある怖い側面もある病気です。

Q.日本ではやりはじめたって,どんな状況なの?

日本は2015年から「麻しん排除状態」に認定されています。これは,日本国内では「日本にいる麻しんウイルス」による流行が起こっていないということです。もちろん今後海外から持ち込まれた麻しんウイルスが国内でひろがっていくことはありえます。今はまさにそれが起ころうとしているのが心配されています。

コロナ禍で国際旅行が激減したため,麻しん症例は非常に少なくなっていました。現在渡航制限も解除され海外と日本国内の人の移動が活発になってきており,その麻しんの海外からの持ち込み事例も今後増えることに用心しておく必要があります。

Q.麻しんって,どんな症状があるの?

麻しんの症状は体内にウイルスが侵入(感染)してから,およそ10~12日後に出現(発病)します。初めにでてくる症状は,鼻水,咳,微熱など風邪のような症状です。この時点では普通の風邪と区別するのはなかなか困難です。目の充血や光に敏感になる症状を伴うこともあります。その数日後からでてくる全身の皮疹がとても特徴的で,顔からでた発疹が全身に広がっていくのがよくある経過です。

ほっぺたの内側や歯ぐきの内側に「コプリック斑」と呼ばれる白い斑点がみられることがあります。麻しんを疑ったら,口の中の観察を行うことが非常に大切ですが,一方で近づきすぎると感染リスクも高いため注意が必要です。

Q.麻しんって風邪症状と発疹(ポツポツ)だけで終わるの?

麻疹に感染した子供と大人の30%が合併症を発症する可能性があります。合併症には耳の感染症や下痢などがあります。合併症の中でも肺炎はときに深刻になる可能性があり,麻しんに関連した死亡原因の中で一番多いです。麻しんの死亡率は1,000例あたり1〜3人で,特に5歳未満と免疫不全の人で最も高いとされています。

また約1000人に1人の麻しん患者が脳組織の炎症(脳炎)を発症し,そのうちさらに約4人に1人が長く続く神経障害に悩まされることになります。ごくまれに麻しんウイルスの持続感染により「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」という病気がおこることがあります。この病気は神経や脳の組織が徐々に変性することで起こります。SSPEは麻しんに感染してから数年後に現れるのが一般的で平均すると感染から7〜10年後に見られます。症状としては性格の変化,徐々に起こる精神的な悪化,筋肉の痙攣などの神経筋の症状があります。麻しんの感染から時間も長く経過しているため,診断も難しいケースが少なくありません。麻しんの感染が若いうちに起こった場合に現れやすくなります。

Q.麻しんはどうやってひろがるの?

麻しんウイルスは,感染者が咳やくしゃみをしたときに発生する飛沫によって広がります。ウイルスを含む飛沫は数時間空気中に留まります。また飛沫によってウイルスに汚染された物の表面では,最大2時間までウイルスの感染力が持続するとされています。

感染者は発疹が出る前後のおよそ4日間,周囲に麻しんを感染させる可能性があります。麻しんはワクチン未接種の人の間で容易に広がります。1人の麻疹患者が,平均して12~18人の無防備な人に感染させることができると推定されています。あれだけ世間を騒がせたコロナウイルス感染症よりも,もっとずっと強い感染力なのです。              (図はECDC infographicより)

Q.特に注意しなくてはいけないのは誰ですか?

一度麻しんにかかったことをしっかりと覚えている方,確認出来ている方は大きな心配は不要です。一度麻しんにかかると,麻しんの抗体はずっと続くと言われています。(ただし非常に高齢の場合や免疫力が弱っている場合は別です。)したがって,今までの人生で麻しんにかかったことのない人,またワクチンを2回接種していない方は,年齢に関係なく麻しんにかかる危険性があります。

麻しんにかかったことがあるかどうかはっきりわからない場合には,医師と相談してください。たとえかかったことがある人がワクチン接種をしても,副反応は強くなりませんので,念のためワクチンを打っておくという考え方もあります。

Q.私はワクチン接種を受けた方が良い?

現在ワクチンは国の定めた定期接種が行われているため,対象年齢の方々(1歳児,小学校入学前1年間の幼児)は積極的勧奨の対象です。母子手帳を確認すれば,自分が接種しているかわかるはずです。

中高生や成人の場合「麻しんにかかったことがなく,ワクチンを1回も受けたことのない方」は,ぜひかかりつけの医師にご相談ください。

2000年(平成12年)4月2日以降に生まれた方は,定期接種として2回の麻しん含有ワクチンを受けるチャンスがあったはずですが,それ以前に生まれた方は,定期接種として1回のワクチン接種のチャンスがあった,あるいは定期接種のチャンスがなかった年代です。

そのため麻しんにかかったことがなく,2回の予防接種を受けたことがなかった方で,特に医療関係者や学校などの職員など麻しんにかかるリスクが高い方は,予防接種についてかかりつけの医師にご相談ください。

麻しんワクチンは1回接種のみでは2-5%の割合で免疫が十分には得られない場合がありますが,2回接種をすると免疫獲得率は97-99%以上とされています。

Q.ややこしいな?つまりどういうこと?

下の表を目安にしてください。2回ワクチンを打ったことをしっかり覚えている方,麻しんにかかったことをしっかり確認できる方は打たなくても大丈夫です。

Q.麻しんの予防接種を受けたいと相談したら,MRワクチン
(麻しん風しん混合ワクチン)を勧められました。それでいいの?

麻しんの予防対策として,MRワクチンは単独ワクチンと同じくらいの効果が期待できます。またMRワクチンを接種しても健康への影響に問題はありません。むしろ風しんの予防につながる利点があります。

ただしMRワクチンは生ワクチンですので,妊娠している女性は接種できません。妊娠していなくても,接種後2カ月程度の避妊が必要です。これはおなかの中の赤ちゃんへの影響を出来るだけ避けるためです。

Q.麻しんにかかったらどうするの?治療方法はあるの?

麻しんはウイルスによって引き起こされるため,抗生物質は効きません。そのため麻しんに対する特別な治療法はありません。ほとんどの場合水分補給や解熱剤など症状をやわらげる治療を行って,しぜんに回復するのを待ちます。また麻しんが家族や友人にひろがるのを防ぐために,様々な対策をとる必要があります。

麻しんにかかってしまったら,感染者はワクチン接種をしていない人にうつさないように,学校や職場には行かないようにしましょう。ご家族でも接触はできるだけ控えましょう。

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