院長コラム

Director's column

花粉症にまつわるあれこれ

花粉症でお悩みの患者さんが急増しています。今年は目が痒い,去年よりも辛いとお話される方もいれば,

例年よりは楽とお話される方もいて,お一方お一方で状況や反応が異なっているようです。

Q.花粉症の薬って,色々あるけどどう違うの?

画像は一般的にアレルギー専門外来でよく使われる薬です。(埼玉医大アレルギーセンター長 永田真先生 Xポスト参考)

従来抗ヒスタミン薬は眠気が問題となってきましたが,これらの薬は眠気が弱いとされています。

ビラスチン=ビラノア,フェキソフェナジン=アレグラ,デスロラタジン=デザレックスと,眠気が少ない上位の薬剤になります。

ただしこの副作用や効果は人によってだいぶばらつきがあり,眠気が一般的に強いとされている薬のほうがかえって眠くなかったとお話されるかたもいるため,患者さんによって相性のよい,効果と副作用のバランスが良い薬を探すのも重要です。

 

☆ビラノア:眠気が最もすくないとされています。車の運転も可能です。ただし空腹時(食前なら1時間,食後なら3時間程度あける)に飲まないと効果がおちます。

☆デザレックス:眠気がすくなく,妊婦さんや授乳婦さんにも安全性が高い薬です。

☆アレグラ:1日2回の内服です。これも眠気が少なめで,小児にも使用できます。

Q.点鼻薬について。注意すべき点鼻薬って?

外来をしていると案外おろそかにされがちなのが点鼻薬です。「あんまり効かないから・・・」とおっしゃる方がいますが,このステロイド点鼻薬は即効性がありません。毎日調子が悪い日だけでなく,毎日使い続けることで徐々に効果が現れます。

また「ステロイド」といわれると副作用が心配とおっしゃる方もいますが,ステロイド点鼻薬は内服薬とちがって全身への作用が非常にすくない薬です。

アラミスト点鼻液:1日1回,各鼻の穴に2噴霧。全体にミストのように広がるよう設計されています。院長も使っています。

ナゾネックス点鼻液:1日1回,各鼻の穴に2噴霧。鼻の奥に噴射しやすいように設計されているので,やや勢いが強いと感じることもあります。

エリザス点鼻粉末:1日1回。各鼻の穴に1噴霧。薬が入ったのかどうかわからないくらいの少ない刺激感が特徴で,粉(パウダー)タイプです。

Q.使い方に注意が必要な点鼻薬について!

市販の点鼻薬のなかには,使うとすぐに鼻詰まりがおさまりやすくなるものもあります。

それらの中には,「ナファゾリン」をはじめとする血管収縮薬が含まれている場合があります。

この血管収縮薬はたしかに即効性があってつかうと気持ち良いのですが,これを使い続けてしまうと,「薬剤性鼻炎」を起こしてしまいます。 鼻の粘膜の内側には海面静脈叢とよばれる,血管があつまっている部分があります。

鼻の粘膜が腫れて鼻がつまるのはこの血管が腫れてふくらんで,血液が充血するような状態になるからです。血管収縮剤を使うと血管がしぼんで腫れがとれるため,鼻づまりが改善します。しかしこの効果は一時的で,またすぐに鼻はつまります。

そこでもう一度同じ点鼻薬を繰り返すことになります。繰り返していると,血管のしぼむ反応が悪くなり,以前のようには鼻づまりが取れなくなってしまうのです。そして一旦こうなるとなかなかもとに戻らないので要注意です。

Q.花粉症の注射薬って?

花粉症で外来に来たかたから「昔花粉症がひどかったときにつかった筋肉注射は,一発で良くなりました。」というお話をききました。詳しくきくと,「ケナコルト®」というステロイドの筋肉注射薬でした。

「ケナコルト®」は長く効くステロイドです。花粉症に対して使用する際には,大量のステロイドをスギ花粉飛散時期ころに投与して,その後数ヶ月効果をもたせようという作戦で使われます。

一回の注射で1シーズン楽に過ごせるのであれば,非常に魅力的にみえますよね?でもじつは使ってほしくない治療方法なのです。それは,「効果はあるが重大な副作用があるため,花粉症(くらい)では使うべきでないケースが多いから」です。

鼻アレルギー診療ガイドラインでも,アレルギー性鼻炎ガイドでも,ステロイドの筋肉注射薬はどの重症度でも推奨されていません。その理由は「ステロイドの副作用」があまりにも大きいからです。

ステロイドの副作用としては,本当におおくのことが知られています。

★易感染性:免疫力が低下するため感染症にかかりやすくなります。普段元気であれば問題にならないような弱毒菌やカビなどの感染症にかかってしまうことがあります。帯状疱疹発症のリスクにもなります。

★糖尿病:血糖上昇のリスクや,糖尿病発症のリスクになります。

★骨粗鬆症:骨が脆くなりやすくなります。

★満月様顔貌:顔がまんまるにふくれたようになってしまいます。

★精神症状:不眠症やうつ病になることがあります。

その他にも白内障や緑内障,ステロイドによる筋力低下や,皮膚の問題,高血圧や脂質異常症につながるケースもあります。

ステロイドは,この副作用を考えてもなお,治療の効果が大きいと思われるような病気に限って,必要最小量を,最低限の期間用いることが大切です。この量や期間は病気の種類やその方の病状経過によって異なりますが,花粉症くらいでつかうことは一般的には,効果と副作用のバランスがわるい(副作用が大きすぎる)のでおすすめできません。

※今回は細かく触れませんが,「ゾレア」という注射薬については,重症の花粉症で,各種内服治療や点鼻薬でも症状の改善が乏しい場合には使用することができます。

 

■ところでくしゃみってどれくらいとんで,どれくらいただよっているの?

最近の研究で分かったことですが,人が息を吐いたり,くしゃみや咳をするときに出るものは,単なる水滴だけではありません。

重要なのは,その周りの空気を巻き込みながら,水滴を含んだガスの雲のようなものがつくられるということです。この雲の中では、様々なサイズの水滴が集まって,さらに風に乗って運ばれます。

このガスの雲は中が湿っていて温かいため,通常ならばすぐに蒸発してしまう水滴も、雲の中でははるかに長く持続することができます。実際に普段は一瞬で消えてしまう水滴が,この雲の中では,最大で1000倍もの長さ,つまり数秒ではなく数分間も空中に残ることが可能になるとされています。(JAMA. 2020;323(18):1837-1838. doi:10.1001)

■この時期の過ごし方のおさらいです

(1)花粉情報

花粉飛散時期にはインターネットやテレビで花粉の飛ぶ量の予測がでています。事前に花粉情報を確認して,対策を立てましょう。症状が強いひとは,必要なとき以外の外出は控えめにするのが安心です。

 

(2)花粉が多く飛びやすい日や時間帯は?

雨上がりは花粉が多くなります。花粉は雨が降れば地面に落ちます。そのため雨の日は飛ぶ量がへりますが,雨が上がった翌日は,山々など遠くから飛んでくる花粉に加えて,雨で地面に落ちたあと乾燥した花粉も巻き上げられるので,飛散する花粉はふえます。

一般に花粉は朝と夕方に多く飛ぶといわれています。日の出から時間とともに気温が上昇していくにつれて,花粉も目や鼻の高さに浮遊しやすくなることや,夕方にかけて気温が下がってくると,今度は上空にあった花粉が降りてくるといわれています。ちょうど通勤や通学時間に,顔のそばに花粉がいると考えるとわかりやすいです。もちろん地域の地形や建造物などによって差はありますが,覚えておくとよいかもしれません。

(3)花粉から逃げるための服装は?

花粉は全身に付着します。頭や髪の毛は帽子で防ぎましょう。目や鼻はメガネやマスクで,首はマフラーや春先はスカーフで防いで,体にできるだけ直接花粉がつかないようにしましょう。衣類は花粉が付きづらいような,できるだけ表面がツルツルしたものがよいです。ウールや毛羽立った素材は,花粉がくっつきやすいので要注意です。

(4)帰宅時 帰宅後

家の中に花粉を持ち込まないように,玄関前で花粉を払いましょう。すぐに着替えて外気に露出した顔などを洗い流しましょう。この時期は症状の強い方は,洗濯物を屋内に干すのもおすすめです。

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