院長コラム

Director's column

「オミクロン株対応 新ワクチン」ってなんなの?

アメリカのいくつかの州ではすでにオミクロン株に対応した新ワクチンが接種されています。日本でも10月中旬以降に接種開始予定であったのが,前倒しで準備がすすめられています。静岡市においてもできるだけ早く接種開始するために,関係各所が大忙しで連携をとっています。

オミクロン株対応ワクチンについて現時点で分かっていること,まだ分かっていないことについてまとめました。

オミクロン対応ワクチン,今までのワクチンとの違いは?

今までのワクチンは,一番初めに中国武漢で見つかったオリジナルのウイルスの情報を一部とってきて,
その情報をレシピとしてつめこんだmRNAワクチンとして,ファイザー社あるいはモデルナ社などで作られました。

しかし2019年冬にはじめて新型コロナウイルス感染症が出現してからこの3年半で,コロナウイルスは様々な変異株が登場し,今夏日本ではオミクロン株(BA.5)が大流行しました。
オミクロン株はオリジナルのウイルスとはその顔つきが少し変わってきています。

今回使用されるオミクロン対応ワクチンとは,mRNAワクチンのレシピのうちの半分はオリジナルのウイルスから,残りの半分はオミクロン株からつくられています。
つまりオリジナルとオミクロン株の2種類のウイルスの情報をもとにされているわけです。
オミクロン株対応ワクチンは,オミクロン株にも効果が期待されています。

もうちょっと詳しく

今までのmRNAワクチンは,野生株(オリジナルのコロナウイルス)の表面にあるスパイク蛋白を体内で作り出させ,できたスパイク蛋白に対して体が抗体を作ることで,コロナウイルスの感染や重症化を防いでいました。
しかしオミクロン株は野生株から大きく変異したため,野生株のスパイク蛋白への抗体では十分な効果がなくなってきています。
オミクロン株対応ワクチンは,野生株とオミクロン株の両方のスパイク蛋白のレシピをもとにmRNAワクチンを作ることで,野生株とオミクロン株の両者への抗体が作られることが期待されています。

モデルナのオミクロン株対応ワクチン(mRNA-1273.214)は,野生株25μgとオミクロン株25μgを合わせて50μgにしたものです。合計投与量は今までのワクチンと同じです。
ファイザーのオミクロン株対応ワクチン(BNT162b2+BNT162b2 Omi)も野生株15μgとオミクロン株15μgを合わせて30μgにしたもので,ワクチンの接種量と同量です。

どれくらい効果があるの?

ざんねんながら現時点では,どの程度感染予防効果があるのか,重症化予防効果があるのかはわかっていません。

有効性が期待されているのは,いままでのワクチンに比べてオミクロン株対応ワクチンは,オミクロン株に対する中和抗体をより多く産生できるという点が明らかになったからです。

doi: https://doi.org/10.1101/2022.06.24.22276703

モデルナのオミクロン株対応新ワクチン(野生株/オミクロン株BA.1)を4回目として接種した場合,従来のワクチンと比べて,BA.1やBA.5といったオミクロン株に対する中和抗体がより多く産生されています。
一番左のグラフは試験対象者全員の比較です。4回目投与前後でピンクの従来型のワクチンでは,抗体量が512→1933と上昇しています。
紫のオミクロン株対応ワクチンでは,432→3070に上昇しており,より大きく上昇しています。コロナ感染歴のある方,ない方でそれぞれ比べても,やはり新ワクチンでより大きく抗体価が上昇していることがわかります。

このデータからは,コロナにすでにかかったことがある方で特に大きく上昇しているのも興味ぶかいです。
第7波でコロナにかかってしまった方に対しても効果が期待できるかもという判断材料になりそうです。

このグラフはモデルナ社のワクチンの臨床試験データですが,同じくファイザーワクチンでも類似した結果が確認されています。

中和抗体が多くつくられると,どうなるの?
アメリカで使われるワクチンと違うの?

これまでのワクチンと中和抗体に関する研究の結果から,中和抗体が多く産生されれば,感染予防効果が概ね大きくなることがわかっています。そのため中和抗体量がふえるということは,感染予防や重症化予防に効果があるのではなかろうかと考えられています。

ただしオミクロン株対応ワクチンがオミクロン株に対してどれくらい感染を防ぐ効果があるのかについては,まだ人でのデータがありません。
これから世界で使用されるにつれて,その感染予防や重症化予防効果が明らかになると思われます。

日本とアメリカ,使用されるワクチンの違い

日本で使われるオミクロン対応ワクチンと,現在アメリカで接種が始まっているものには少し違いがあります。
日本で使われるオミクロン対応新ワクチンは,「BA.1」と呼ばれる,春先に流行したオミクロン株の情報をもとに作られています。
アメリカで接種されるオミクロン株対応ワクチンは,第7波の主役であった「BA.5」の情報が使われています。

日本でも今問題になった直後のBA.5に対応したワクチンを使えばいいじゃないかと考えたくなりますが,特徴に少し違いがいあります。

日本で使われるオミクロン株対応ワクチンは,前述のとおり「BA.1」をもとに作られているため,約半年ほど時間がたっています。
その時間をかけて人での臨床試験もきちんと行われ,最初に出したグラフのように効果も確認されています。副反応についても,今までのワクチンよりも増えることはない,ということも確認されています。

アメリカで使われる「BA.5」のワクチンに関しては,BA.5流行時から作られはじめたので,それほど時間が経っていません。人に対して使用したデータを集める時間はないため,動物実験を行ったのみという状況なのです。

オミクロン株対応ワクチンの接種対象者は?

国の方針では,まずは現行の4回目接種対象者(60歳以上,基礎疾患のある方)などを優先し,その後エッセンシャルワーカーや特定の年代層,つづいて12歳以上で初めの2回接種を終了としている方を対象にして3回目,あるいは4回目接種としてすすめていく方針です。

静岡市においては,9月末時点で60歳以上の7割が従来の4回目ワクチンの接種が終了見込みとなっているほか,基礎疾患がある方,医療従事者の接種も順調にすすんでいるため,10月初旬から「12歳以上で,初回の2回接種がすんでいる方」 を対象にして準備しています。

さらにすでに4回目接種も終了している方に対しても,11月をめどに5回目接種を開始する見込みです。対象者には接種券が配送される予定ですが,すでに手元にある3回目または4回目接種用の接種券も使用です。

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