院長コラム

Director's column

新型コロナとインフルエンザ 今冬に備えて

2022~23年冬,インフルエンザが大流行するのではないか?
また,インフルエンザとコロナの同時流行がおこるのではないか?ということが大きく心配されています。
9月上旬に沖縄でインフルエンザ感染者数の増加が報告されていますが,幸いなことにその後さらなる拡大はみられていません。
また静岡県においても10月20日時点で1例のみの報告にとどまっています。
2022-2023年シーズンは,インフルエンザやコロナは一体どの程度流行するのでしょうか?
また,これら2つの感染症の症状や重症化の危険性はどう違うのでしょうか?さらに冬場の同時流行を防ぐためには,何をしたら良いのでしょうか。

■オーストラリアにおけるインフルエンザの流行

Australian Influenza Sur veillance Report – 2022 Influenza Season in Australia

2022年5月,日本が初夏を迎える頃,南半球にあるオーストラリアでは冬を迎え,インフルエンザの流行が見られていました。
図はオーストラリアの過去数年間でのインフルエンザと診断された患者数を示しています。
新型コロナウイルス感染症が始まった2020年,2021年において,インフルエンザは殆ど見られませんでした。日本でも同じく,2020年,2021年ではインフルエンザの流行はありませんでした。

しかし2022年オーストラリアでは5月以降,インフルエンザ患者が発生し,その後急激な増加を示しています。
過去5年間平均を示した黄色のグラフと比べると流行時期も3カ月弱ほど早いようです。2022年7-8月のコロナ(オミクロンBA.5株)の大流行も急に始まり,急激に患者さんが増え,そして2ヶ月程度で徐々に減っていきました。
この経過と似たことがインフルエンザ感染症として,オーストラリアで5~6月にかけて起こっていたことがわかります。同じ傾向が日本でも起こるとすれば,この冬インフルエンザの流行が起こるかもという予測につながります。

■新型コロナも冬に増えるの?

新型コロナウイルス感染症の流行が,季節によってどのていど変わるのか,まだ学術的な見解は定まっていません。
気象による影響,その国や地域ごとの人々がどの程度免疫をもっているのか,社会的活動の活発さや,国をまたぐ移動,そのほか地域ごとの公衆衛生的な介入,変異株の出現が流行に影響しているという報告もあります。
それぞれの要因がどの程度影響しているのか不透明でもあり,この冬に増えるかどうかはっきりしたことはわかりません。

しかし過去 2 年間を振り返ると国や地域によってタイミングや規模には差がありますが,だいたい 12 月から 2 月と6 月から 8 月にかけて流行しているようです。
下の表は,2020年と2021年の冬の流行を示しています。

この現象が今年も繰り返されるかもしれません。
今までの季節性インフルエンザや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)以外のいわゆる風邪ウイルスは,湿度が低く乾燥し,気温が低い時期には流行しやすいことがしられており,こういった他の呼吸器ウイルス感染症の流行パターンをふまえても,2022 年冬期に流行拡大を起こすかも・・・と注意しておく必要はありそうです。

■新型コロナウイルス感染症とインフルエンザウイルス感染症のちがいは?

「潜伏期」という言葉も,だんだん市民権を得てきたと思います。
コロナウイルスやインフルエンザウイルスに感染してから,何かの症状が出るまでの期間が潜伏期です。
2020年に初めてコロナウイルスが広まった頃,潜伏期は5から7日程度と言われていましたが,オミクロン株流行期においては,潜伏期は約3日と短くなっていました。
インフルエンザも約2日程度といわれており,潜伏期は近い数字です。
潜伏期のちがいからコロナウイルスとインフルエンザ感染症を見分けるのは,どうやら難しそうです。

症状のちがいはあるのでしょうか。

新型コロナの流行初期においては,嗅覚異常・味覚異常といった,通常の風邪やインフルエンザではみられない特徴的な症状が多く報告されていました。
また咳は当初から多く見られたものの,咽頭痛や鼻水は6〜20%とそれほどよくみられる症状ではありませんでした。
しかし第7波の主流であったオミクロン株による症状は,喉の痛み鼻汁(鼻水)が多くみられました。発熱,頭痛や関節痛,筋肉痛といった全身症状も共通しています。

つまり現在の新型コロナウイルス感染症の症状は,インフルエンザの症状に非常によく似ているといえます。症状からの区別はまず困難です。
私自身のオミクロン株による第7派の経験からは,全く区別困難と感じます。そうなると診断のためには,抗原検査やPCR検査に頼らざるを得ません。

インフルエンザウイルス感染症においては以前から,「リンパ濾胞」という喉の症状がみられることが知られています。診断の補助に使われることがありますが、どうやら新型コロナでもこのリンパ濾胞がみられることがあるようです。
私自身もこの情報を得てから,積極的に見つけるようにしていますが,頑張って顔を近づけすぎると飛沫を浴びかねないので,なかなか難しいです。

■じゃ,どうすればいいの?

ここまでをふまえるとこれから冬をむかえるにあたり,どうやら新型コロナウイルス感染症,インフルエンザウイルス感染症のどちらにも備えておく必要がありそうです。
特に重症化リスクの高いかたは注意が必要です。

このほか,肥満や慢性腎臓病の方,リウマチなどの自己免疫疾患の治療において,免疫抑制剤を使用している方も注意が必要です。
これらのリスク因子は,インフルエンザ感染症においてもだいたい似ています。
インフルエンザ感染症においてはさらに生後6ヶ月から5歳の小児も注意が必要とされています。

また新型コロナとインフルエンザはどちらも飛沫感染,接触感染を主な感染経路としています。
ということは,今まで散々いわれてきた感染対策がそのまま有効です。
混雑した,あるいは不特定多数の人がいる屋内でのマスク着用,こまめな手洗い,定期的な換気など,基本的な感染対策が有効です。

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