院長コラム

Director's column

新型コロナとインフルエンザ,本当に同時流行するの?

いよいよ本格的に寒くなってきました。この冬は新型コロナとインフルエンザが同時流行するのではないかと心配されていますが,現状はどうでしょうか。確認してみましょう。

下の表は静岡県における令和4年第49週(12/5~12/12)のインフルエンザ感染症の定点報告です。
中部地区で定点あたり0.10でした。
この数字が1を超えると流行開始,10以上で注意報,30で警報になります。ちなみに東京の数字は0.5でした。
いずれもまだ発生数は少ないですが,昨年の同じ時期は0でしたので,今後の動向は昨年と違ってくるのか注目する必要がありそうです。

動向静岡県環境衛生科学研究所感染症情報センター/静岡県健康福祉部感染症対策課

今年はオーストラリアで新型コロナとインフルエンザの同時流行がみられました。2つのウイルス性呼吸器感染症が同時に流行すると,同時に感染することもあるのでしょうか? 同時に感染したらどうなるのでしょうか?

Q.ウイルス干渉(Viral Interference)とは?

2つ以上の呼吸器系ウイルスが同時に流行している時期に,ヒトが同時に,または連続して流行している2つのウイルスに感染すると,お互いの感染状態に影響を与えることがあります。これを「ウイルス干渉」といいます。

例えばこの冬に新型コロナとインフルエンザが一緒に流行した場合,新型コロナに感染した人が,その後にインフルエンザに感染することがおこりえます。この場合新型コロナ感染症の経過が,インフルエンザ感染に影響をあたえることを「ウイルス干渉」というわけです。

この「ウイルス干渉」は,1960年代から様々なウイルス間の相互作用について研究されています。例えば,あるウイルスに感染すると免疫により,体を守るインターフェロンというタンパク質がつくられます。このインターフェロンが,次に感染するウイルスが増えるのを抑える作用が起こる仕組みも,ウイルス干渉の一つと考えられています。

ざっくり言うと,人があるウイルスに感染すると免疫が活性化した結果,近い時期に他のウイルスが体に入り込んできても,活性化した免疫によって追い払われることがあるという仕組みです。

Q.ウイルス干渉があれば,同時流行はおこらない?

残念ながら新型コロナとインフルエンザのウイルス干渉については研究がまだ十分ではなく,お互いが与える影響について詳しくわかっていません。オーストラリアにおけるインフルエンザ感染症の発生状況をみると,ウイルス干渉がおこるから同時流行はおこらないという見込みは,ちょっと甘いかもしれません。

図のとおり今年の5月から6月にかけて冬を迎えた南半球のオーストラリアでは,インフルエンザの流行がみられました。同じ時期にオーストラリアでは1日あたり2万〜6万人の新型コロナの感染者が報告されており,同時流行が起こっていました。
ウイルス干渉により同時流行は起こりにくいという期待は,,,ちょっと難しいかもしれません。

Q.同時に感染することはあるの?同時に感染すると,ヤバいの?

クリロナ

「フルロナ」という言葉をご存じでしょうか?「フルロナ」は造語で,コロナウイルスとインフルエンザの同時感染した状態のことを意味しています。

2022年1月ごろに,海外で新型コロナとインフルエンザの同時感染の報告があり話題となりました。
このような報告が,少しずつ増え始めています。イギリスで2021年2月から12月の間に,新型コロナに感染した患者で,他の病気についても検査も受けた6965人について他の呼吸器系のウイルスとの同時感染を調べたところ,227人(約3%)がインフルエンザと同時感染していたと報告されています。
さらに新型コロナとインフルエンザの同時感染をしていた患者は,新型コロナだけに感染していた患者よりも,4.1倍人工呼吸管理が必要な重症な呼吸不全になりやすく,2.4倍死亡しやすいという結果でした1)

ハムスターによる動物実験でも,新型コロナとインフルエンザの同時感染は,単独の感染に比べて肺のダメージが大きく重症化し,病気の経過も長引いたことが報告されています。
また新型コロナとインフルエンザは同じ肺でも違う細胞に感染していたため,ウイルス干渉は起きなかったのではないかと考察されています2)。これらの結果をふまえると,新型コロナとインフルエンザのウイルス干渉は,悪い方に働く可能性がありそうです。

すでにアメリカでは,インフルエンザは猛威をふるいはじめています。日本も年末から年始にかけて注意を払う必要があります。

2022/10/2~12/10 インフルエンザ患者数

https://www.cdc.gov/flu/weekly/WeeklyArchives2022-2023/WHONPHL49.html

Q.どう注意すればいいの?

結局のところ繰り返しですが,新型コロナ,インフルエンのどちらにも備えておく必要がありそうです。特に重症化リスクの高いかたは注意が必要です。

肥満や慢性腎臓病の方,リウマチなどの自己免疫疾患の治療において,免疫抑制剤を使用している方も注意が必要です。これらのリスク因子は,インフルエンザ感染症においてもだいたい似ています。インフルエンザ感染症においてはさらに生後6ヶ月から5歳の小児も注意が必要とされています。

  1. SARS-CoV-2 co-infection with influenza viruses, respiratory syncytial virus, or adenoviruses. Lancet. 2022;399:1463-1464.
  2. Coinfection with influenza A virus enhances SARS-CoV-2 infectivity. Cell Res. 2021; 31:395- 403.

Q.ところで,コロナが5類になるとどう変わるの?

新型コロナは感染症法上の類型のうち,「新型インフルエンザ等感染症」に属し,結核などと同じ「2類」よりもさらに強い感染防止策がとられています。入院や外来診療に対応できる医療機関は一部に限られ,感染拡大がおこるたびに,いわゆる医療逼迫(ひっぱく)が課題となっています。

いままで政府は類型見直しに慎重な姿勢でした。これは高齢者の重症化率や致死率が高かったためでしたが,2022年の第7波以降は,徐々に重症化率がさがっている現状と向き合う必要ができました。

この1年は「2類相当」の位置づけを変えず,療養期間の短縮や全数把握の簡略化などの措置でなんとか感染対策と社会経済活動の両立をはかる「ウィズコロナ」を進めてきましたが,それも徐々に限界を迎えています。

厚労省が類型見直しに向けた環境が整ってきたとして,制度の見直しを検討中です。その理由としてまず致死率の低下が挙げられます。60歳以上の致死率は第5波(デルタ株)の2.5%から,第7波(オミクロン株)は東京都が0.64%,大阪府が0.48%となり,インフルエンザの0.55%と差はなくなってきました。下図は静岡市における重症化率と死亡率です。

さらに今回のワールドカップでも海外では脱マスクなど対策緩和が先行し,国内でも徐々に機運が高まっているともいえます。

Q.類型変更にはデメリットはないの?

新型コロナが今後5類になればどんな変化があるのでしょうか。メリットとしては,医療機関でコロナとそれ以外の患者を必ずしも分ける必要がなくなる。
また幅広い医療機関に入院や外来診療の協力を要請できるようになり,医療逼迫(ひっぱく)を抑えられると考えられています。
また感染者への強制的な入院や自宅療養,就業制限などの厳しい措置もなくなります。
これは社会の自由度を上げることにつながります。ただし医療者側からは,否定的な意見も見られます。

現在COVID-19と診断され入院が必要となった人が発生した場合,保健所や都道府県が受け入れ先施設を探してくれます。
5類になり入院勧告がなくなれば,診断した病院が入院管理をできる場合には,感染対策を強化した上で入院対応となりますが,入院管理ができなければ転院先を探さなくてはなりません。
これまで当たり前に救急の受け入れをコロナも含めてやっていた病院にとってはあまり変わりませんが,そうでない施設は入院対応に苦慮することになります。

また転院先を決定する前に救急車を呼んでしまうこともすでに横行しており,そこから救急隊が搬送先の調整をするケースも散見されています。このような場合現状は救急隊から保健所に連絡がいき,保健所か都道府県が入院先の調整を行い決定後に搬送していますが,5類感染症になった場合には,そこまでの対応は期待できません。
外来で診断後転院先の調整に時間を取られると他の患者さんの診察に支障を来しますので,「5類になるとどこの病院・診療所でも診てもらえる」というのは幻想で,発熱患者の対応には消極的になるのではないかという見方もあります。その他のデメリットも挙げられています。
現在の治療費やワクチン接種費に対する全額公費負担をどうするかは大きな問題点です。
5類になれば保険適用以外の費用は原則自己負担となり,高額な検査代や重症化予防のための薬剤費など,すべて患者負担となります。これを社会は許容する覚悟が必要です。

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