院長コラム

Director's column

コロナウイルス感染症の今

すでにニュースでは取り扱われなくなっていますが,今日本中で発熱の患者さんがすごく増えていることをご存知でしょうか?

発熱の患者さんの中でも,新型コロナウイルス感染症の患者さんがかなり増えています。

感染法上の分類が5類になったことで全数把握はできなくなっていますが,新規感染者数の把握方法が変わってからも新規感染者数は増加傾向にあります。

 

Q どれくらい患者さんがふえているの?

新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが2023年5月8日に「5類」に移行したため,新型コロナの感染状況を示すデータは,いままでの「全数把握」から,全国5000の医療機関からの報告をもとに公表する「定点把握」に変わったのは今までお伝えした通りです。

当院も静岡市の定点医療機関として,毎週報告しています。厚生労働省の8月14日の発表によると,第31週(7月31~8月6日)の定点当たりの新規感染者数は全国平均15.81でした。定点把握が始まった第19週(5月8~14日)の2.63から実に7倍近く増加しています。静岡県においては,全国平均を上回る17.42と高値で,増加傾向が続いています。

単純な比較はできませんが,インフルエンザの場合には,この数字が10を超えれば「注意報レベル」,30を超えると「警報レベル」となっているため,すでに注意報レベルを超えているといえます。ちなみに第8波の時期はまだ全数把握でしたが,定点あたりの報告数に換算すると,ピーク時には約30であったことが分かっています。

 

厚生労働省の新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00438.html
「2023年8月14日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況等について」から

年代別にみると,一番多いのは10歳未満の小児です。続いて社会的な活動が活発な20歳~50歳台に多いようです。重症化が懸念される80歳以上においても,じわりじわりと増え続けているのが心配です。

https://moderna-epi-report.jp/

モデルナ・ジャパンが作成している「新型コロナ・季節性インフルエンザ リアルタイム流行・疫学情報」も,流行状況を把握するのに便利です。これはJAMDAS(日本臨床実態調査)という医療データの傷病名を元に感染者数を推計したもので,現在の流行状況を早期に知るために非常に有用です。さらにこのデータでは,全国各地の流行状況の推計値を知ることができます。このデータによると,8月の下旬にはピークをこえるのかもしれません。

Q.ピンとこないのだけど,静岡市だとどうなっているの?

https://www.city.shizuoka.lg.jp/000981633.pdf

静岡市内の発生状況は,静岡市のホームページから確認することができます。さらに静岡市では過去のデータをもとに,市内で1日あたり,あるいは1週間あたりにどの程度の患者さんが発生しているのか,推測値も公表しています。

7月31日~8月6日においては定点あたり12.72人,1日あたりの推計値は427人,1週間あたりの推計値は2988人とされています。この数字は徐々に増加傾向のようです。

Q.みんなただの風邪で終わるんでしょ?

若く基礎疾患の無い患者さんにおいては,一過性の風邪のような症状で終わることが確かに多いです。

しかしながら,感染者数が増えるのにつれて,入院が必要になるほど重症化する患者さんの数もじわりじわりと増えているのも事実です。入院を要する患者さんの多くは高齢者や,基礎疾患をもっている方です。

医療機関から厚労省への週ごとの報告では,第30週の新規入院患者は全国で1万1146人,前の週の1.19倍でした。この数字は4週間で倍以上に増えています。新規感染者数増加により重症化する人も増えているのか,ウイルスの変異によって重症化しやすくなったかどうかは,現時点でははっきりしていません。国立感染症研究所によると,国内と同じ亜系統が流行した海外の国の報告では,重症度が上がったという兆候はみられていないとされています。

Q.入院がふえているんだね。救急車への影響はでてるの?

「救急搬送困難事案」という言葉をご存知でしょうか?救急隊は患者さんを救急車にのせたあと,患者さんの行き先が決まっていない場合に,患者さんを引き受けてくれる医療機関を探します。行き先が決まらないと救急隊は現場から離れることができません。医療機関に「引き受けてくれますか?」と確認し,すぐに引き受けてくれる場合もあれば,医療機関の込み具合やベッドの空き具合によっては,「ほかをあたってください」と返答される場合もあります。この「医療機関への受け入れ要請が4回以上」かつ「現場滞在時間30分以上」を,「救急搬送困難事案」と定義しています。

ブルーの軸は,救急搬送困難事案で,その件数は第8波にピークで8000件/週を超えています。うち赤い軸がコロナ疑いの患者さんです。

7月31日~8月6日の週の救急搬送困難事案は,4412件でした。そのうちコロナウイルス感染症が疑われたのは1390件で,新型コロナウイルスが流行する前の同時期と比較して270%以上の増加していることが示されています。

新規感染者数の増加傾向と同じように5月以降救急搬送が困難な件数も増えています。救急搬送ができなくなれば,脳卒中や心筋梗塞(こうそく)など,できるだけ早く治療をするのが大切な病気も治療ができないことになります。これはちょっと怖いですね。

 

Q今流行しているのはコロナの何株なの?

厚生労働省第124回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年8月4日) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00424.html
資料 直近の感染状況等について(事務局提出資料)から
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001131552.pdf

2022年秋までは1種類の変異株が圧倒的多数を占めるような流行の仕方がみられていましたが,現在は複数の種類の亜系統が同時に流行するようになっています。2023年の春以降は,オミクロン株の亜系統であるXBB系統が流行っています。

感染研の推定によると8月7~13日の週にはXBB.1.9系統が全体の37%,XBB.1.16系統が36%,XBB.2.3系統が15%,XBB.1.5系統が8%を占めるとされています。

 多くの変異株や亜系統は元のウイルスの遺伝子の一部が変異して発生します。元のXBBに変異が生じた亜系統,そのさらに亜系統が次々とみられています。国内でXBB系統が流行り始めた頃は,XBB.1.5系統が主流でしたが,その後XBB.1.9系統やXBB.1.16系統に置き換わってきています。

感染研によるとXBB.1.9系統は他の系統よりも感染が広がりやすいようです。重症化しやすさなどについてはまだわかっていませんが,先行して流行している海外では,今のところ重症化率が上がる傾向はみられていません。

XBB.1.16系統も感染が広がりやすいようで,さらにワクチンなどによる免疫から逃げる傾向もみられるとされています。これについても,重症化率の上昇などは報告されていません。

Qそういえば,ワクチンはどうなっているの?

現在はオミクロン株BA.5など2種類の亜系統に対応したワクチンによる追加接種が行われています。対象は,重症化リスクの高い65歳以上の高齢者や,基礎疾患のある人,あるいは医療従事者らです。このワクチン接種は9月19日で終了します。

今秋9月20日から,現在流行しているオミクロン株の亜系統である「XBB.1系統」に対応したワクチンの接種が始まる予定で調整が行われています。対象は生後6カ月以上で,すでに初回の接種を終えている人全員です。2023年度内においては,ワクチン接種は無料です。

なお「XBB.1系統」に対応したワクチンの接種については,「65 歳以上の高齢者」「基礎疾患を有する者」「その他重症化リスクが高いと医師が認める者」以外の方については,予防接種法第8条,第9条に定められている“接種勧奨”や“努力義務”が適応されません。

 

【初回接種について】

今までコロナワクチンを打ったことのない生後6カ月~4歳の乳幼児全員,あるいは5歳以上で初回の接種が終わっていない人に対しては,今までは従来型のワクチン(一番最初に使われていたワクチン)による初回接種が行われてきました。

8月2日に生後6カ月以上の全員に対して,現在用いられているファイザー社のBA.5などに対応したワクチンを,初回接種として用いることが承認されました。このため生後6カ月以上の初回接種には今後こちらのワクチンが使われるようになっていく見通しです。

さらに今秋開始が予定されているXBB.1対応のワクチンのうち,ファイザー社製ワクチンは,生後6カ月以上を対象に,初回接種にも追加接種にも使用できるよう申請中です。

Q.感染対策は何か変わるの?

基本的な感染対策は,できる範囲で継続するのが望ましいでしょう。「できる範囲」は,その時の状況ごとに変わると思います。流行が落ち着いているときに過度な自粛を続ける必要は全く無いと思います。それでも今のように流行が広がってきたら,日々の手洗い,混雑した屋内では換気や可能ならマスク着用,人混みを避けるといった工夫は,自己防衛や他社への感染のリスクを下げるのに役立ちます。状況をみながら,適切に注意して日々をすごしていきましょう。

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