院長コラム

Director's column

2023年9月 AI技術を用いた胸部レントゲン検査
さらに細かな異常を見逃さないシステムを導入しました。

胸部レントゲンには病気を見逃さないようにする見方があり,これを読影(どくえい)方法と呼びます。呼吸器内科医は専門医になる前から一生懸命この力に磨きをかけながら,「ここに病気があるかもしれない,怪しいかもしれない」という判断をして,その後の適切な治療に結びつけられるよう頑張っています。

私も浜松医大や浜松市,静岡市の総合病院でたくさんの指導を受け,また後輩を指導してきました。大御所の先生が何十人も見ている中で,レントゲンをみて画像診断を発表するという関門も通過してきました。この関門では診断が甘いと厳しい指導が入ります。昔の医療界では指導におけるコンプライアンスが緩かったので,今では想像できないほどきついお灸をすえられた医師もいました。(私が教わった先輩方は全員優しかったのを付記しておきます。)

私も多くの大御所や先輩,同輩や後輩医師の前で恥をかかないように,必死で勉強したことを思い出します。今は電子画像ですが,昔は何十枚ものフィルムを準備する必要がありました。これがまた非常に重いので,汗だくになって画像を整理したり,それを抱えて読影室に籠もったこともありました。

こんな経験をしながら内科医として20年以上,呼吸器内科専門医として13年以上胸部レントゲン検査を見続けてきましたので,胸部を専門としない医師に比べて格段に多くの胸部画像診断を行ってきた自信がありますが,それでも未だに判定は難しいと感じることがあります。総合病院ならば多くの医師と相談して診断を行うことができますが,クリニックではなかなか難しいときもあります。そんなときのサポートとして,AI技術を用いた画像診断システムを導入することにしました。

Q.特別な検査が必要なの?どんなふうにみえるの?

今までの胸部レントゲン検査と,検査そのものは全くかわりありません。撮影した画像をAIが認識し,異常部分に色をつけて表示します。

上の2枚の画像が胸部レントゲン画像です。左側が通常の胸部レントゲン,色がついているのがAIシステムを通した胸部レントゲンです。通常のレントゲンでは右肺の一番下がぼんやりと白くうつっていることがわかりますが,あくまで「ぼんやり」です。AIシステムを通すと,この部分が緑色に染まります。実際にCTを撮ったのが下の画像です。AIシステムが異常とした部分には,塊(かたまり)状を呈した病変が隠れていることがわかります。

同じく上の二枚が胸部レントゲンです。通常のレントゲンでは,左側の肺にやはりぼんやりと白い影が見える程度ですが,AIシステムを通すと煌々と光っていることがわかります。下段のCTでしっかり調べてみると,どうやら肺がんが疑わしい画像です。

Q なるほど・・ところでAIってなんだっけ?

AIとは人工知能のことで、Artificial Intelligence(アーティフィシャル インテリジェンス)の略です。現在AIと呼ばれているものは,ビッグデータと呼ばれる過去の膨大なデータをもとに,正解に近いものを導き出すことを指しています。最近のコンピューター性能の大幅な向上から,膨大なデータを比較・検索することができるようになりました。

今回草ヶ谷医院で導入したのは,富士フイルム株式会社「胸部X線画像病変検出ソフトウェア CXR-AID」です。これは胸部レントゲンの診断を得意とするAIシステムです。

肺炎や肺がん,肺結核などの病気はもちろん,昔の病気の傷あとである癒着,古い炎症のあとなどのビッグデータと比較し,患者さんのレントゲン画像から「なにかの病気かもしれない疑わしい部分」を指摘し,私の診断の手助けをしてくれるシステムです。

Q.どういうときに使うの?

当院には毎日何十人もの「せき」や「息切れ」の患者さんがお見えになります。別の医療機関で「レントゲン検査異常」を言われたために受診する方も少なくありません。その多くの方に,レントゲン検査を行います。

次に読影をするわけですが,必死に訓練した私でも判断に悩むことがあります。それは読影が,血液検査のように数値で現れるわけではなく,最終的には私の今までの修練や経験をもとにした感覚に頼る必要があるからです。うえに出した画像のように,異常を確認し,最終的には「様子をみてもよい」か,「もっと詳しい検査を追加すべきか」を感覚で判断します。

AIシステムを導入することで特に注意すべきところをAIがサポートしてくれます。私の感覚と一致しているかどうかもすぐに分かります。また肺炎など,もともと病気がわかっている部分が,治療をおこなってどのくらい改善していくのかを,数値でみることができます。

そのサポートを踏まえた上で,必要な患者さんにはさらなる精査として,CT検査を追加することができます。診断の正確さや速度がしっかりとあがることが期待できます。

Q.いつからはじまるの?費用は?

草ヶ谷医院では2023年9月8日以降,すべての胸部レントゲン検査でAIシステムを使用します。これはすべて医院の負担でおこないますので,患者さんには追加の費用は発生しません。

Q.異常がみつかったら?

すべての異常をすぐに調べる必要はありません。私の経験をふまえたり,過去の画像を比較することも大切です。過去の画像と比べて明らかに目立った異常であれば,より精度の高いCTなどの検査を当日行うことができます。

Q.草ヶ谷医院ができること

私は今までに沢山の肺の病気の患者さんをみてきました。中には「肺がん」が進行した状態で発見され,治療ができないほど進行していた方もいました。実は私の祖父にあたる草ヶ谷医院の初代院長も,「肺がん」で命を落としています。いままでに「なんで胸部のレントゲン検診をさぼっちゃったんだろう」「はやく病院に行けばよかった」そんなお話をされる方もたくさんみてきました。

草ヶ谷医院にご縁のあった患者さんで,「手遅れの肺がん患者さん」に出会いたくありません。できるだけ早く検査を受けてもらって,適切な診断や治療に結びつけていきたいと思っています。

一人でも多くの患者さんを受け入れ,正確に診断をつけられる準備をして,草ヶ谷医院の理念の一つである「安心・安全な医療を提供して,患者さんから信頼され,愛されるクリニックへ」とつながるように努力して参ります。

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