院長コラム

Director's column

Q寒暖差アレルギーとは?

寒いところや,急に冷たい空気をすうと妙に鼻水が出たり,鼻が詰まってしまうという症状でお困りの方はおられませんか?実は私も同じ症状を抱えています。

外来診療をしていると,この症状のことを「寒暖差アレルギーで困っています」とお話ししてくださる方も少なくありません。

この「寒暖差アレルギー」という言葉,聞いたことのある方も結構おられるんじゃないでしょうか?

実はこの「寒暖差アレルギー」,それっぽい名前のくせして,正式名称ではありません。

アレルギー学会の用語集で調べても記載されていません。医学的には「血管運動性鼻炎」と呼ばれる病気が,この寒暖差アレルギーに相当します。正確にいうとこの病気はアレルギーではないのです。

Q.「寒暖差アレルギー」なのに,アレルギーじゃないの?

そもそもアレルギーとは何でしょうか?過去のコラムにも記載していますが,たとえば有名なスギ花粉症を例に考えてみましょう。

私達の体にスギ花粉が入ってくると,体はスギ花粉に対する「抗体」を作ります。この抗体がつくられたあとに,改めてスギ花粉が体に入ってくると,スギ花粉とスギ花粉に対する抗体が反応して,アレルギー反応が始まります。

その結果,様々な細胞が活動して,最終的に鼻水や目のかゆみといった症状を起こす物質がつくられ,スギ花粉症特有の症状が出現するのです。

しかし血管運動性鼻炎ではこういったアレルギー反応は関与していません。温かい,冷たいといった刺激に対して神経が反射して鼻水がでます。

「鼻に刺激が入る→神経を介して脳に刺激が伝わる→神経を介して鼻で症状を起こす」という現象です。もうすこし細かくいうと,温度差という刺激が神経を通じて鼻から脳に伝わり,脳から鼻の中の粘膜の血管を広げる指令がでます。司令は神経を通じて鼻に伝わり,その結果鼻の粘膜が腫れるために,鼻水やくしゃみ症状が引き起こされる症状と考えられています。これらの症状は温度差が7度以上になると出やすいといわれています。

よくみる花粉症,アレルギー性鼻炎ではくしゃみ,鼻水,鼻づまりが有名な3症状が有名ですが,血管運動性鼻炎もこれらの症状が全部みられたり,一部みられたりします。

Q.神経反射で鼻炎がおこるの?

アレルギー性鼻炎でなくても鼻炎のような症状が起こることは実はそれほど珍しいことではありません。鼻は寒暖差だけではなく,体の外からの刺激に対して神経反射で鼻症状を非常によく起こすからです。

そもそも寒さというのは鼻症状を起こします。スキーリゾートの診療所を訪れた患者さんについて調べたある研究では,患者の96%に鼻水が,48%にひどい鼻水があると報告されています。また,辛くて熱いもの例えばアツアツの担々麺を食べたときに,いやにたくさん鼻水がでた経験はありませんか?あれも神経反射によるものです。また欧米でしばしばみられますが,光の刺激によってくしゃみが出る体質の方もいます。これも神経反射の一種です。

Q.治療はどうすればよいの?

はっきりと確立された治療方法はありません。

アレルギー性鼻炎の治療と同じ薬を使うとよくなるケースもあり,薬を試し試し使って様子をみていきます。私も春先に大活躍する「ビラノア」を,急に冷え込みがちな最近は内服していますが,春先に切れ味よく鼻水を止めてくれたほどの効果は,残念ながらまだみられていません。

ビラノアに代表される,抗ヒスタミン薬の中で現在もっともよく使われている第2世代抗ヒスタミン薬ではなく,一昔前に使われていた第1世代抗ヒスタミン薬がよく効くという話もあります。第1世代ヒスタミン薬の副作用であった眠気や口の渇きなどを引き起こす作用のことを「抗コリン作用」といいます。この「抗コリン作用」が,血管運動性鼻炎には有効な可能性があるのです。

病気は何事も予防することが大切です。

温度変化や湯気,臭いなど,自分で「こういう時に鼻水がでる,鼻が詰まる」とわかっているものがあれば,あらかじめそれから逃げることが非常に大切です。これから始まる冬に悪くなるのは,鼻の中の温度が低くなることも影響していると考えられているため,温かい蒸しタオルを鼻に当てると有効な場合もあります。

そのほか,体が感じる温度差をできるだけ小さくすることも大切です。

外出時などはさっと羽織れる衣類やマスクを持ち歩くなど,身につけるものを工夫しましょう。マスクを着用するのもお勧めです。マスクをつけることで鼻の粘膜に触れる冷気を遮断する効果が期待できます。

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