院長コラム
Director's column
冬の健康管理って,何に気を付ければいいの?
Q.冬って血管や心臓の病気が増えるっていうけど・・・。なんで?
冬の寒さは血管に大きな負担をかけます。寒い環境では,体が熱を外に逃がさないように血管を収縮させます。その結果血圧が急上昇してしまい,脳卒中(脳梗塞や脳出血)や心筋梗塞(心臓の栄養を養う血管が詰まってしまう),大動脈解離(体の中心を通る太い血管が避ける)などの命に関わる病気が増加することが知られています。とくに入浴時に注意が必要な「ヒートショック」も見逃せません。これは温度の急激な変化で血圧が乱高下し,血管の異常を引き起こす現象です。
実は年間約1万9,000人が浴室で亡くなっているとされ,ヒートショックに関連しているケースも少なくありません。特にご高齢の方や高血圧,糖尿病などの持病がある方はリスクが高いため,入浴前には脱衣所や浴室を暖める,水分補給をしっかりしておく,適温のお湯(41度以下)に短時間浸かるといった対策が重要です。
Q.寒さで起こる低体温症って?そのリスクと予防法について
室内であっても,幼児や高齢者は低体温症のリスクがあります。寒さに対する感覚が鈍くなり,体温が徐々に下がってしまうためです。症状としては,体の震えや手足の動きが鈍くなったりすること,また意識が低下してぼんやりしてしまうことも。当然ながら放置すると命に関わります。特に一人暮らしの高齢者では発見が遅れることも多いです。家の中でも暖房を適切に使わないと,低体温症に陥るケースがあります。しっかりと体を温めることが大切です。
Q.冬といえばやっぱり増える感染症!なんで?
冬は低温・乾燥によってウイルスが生き延びやすい環境になります。そのためインフルエンザやかぜなどの感染症が夏よりも流行しやすくなります。また乾燥は空気の通り道である気管支の粘膜のバリア機能を弱らせます。
左のイラストは空気の通り道の細胞の様子です。一番上に何本ものヒゲのようなものが生えていますが,これは「繊毛」とよばれ,細胞の表面に非常にこまかなほうきのように生えている毛です。十分に湿度が保たれている状態では,この繊毛は滑らかに動いて,繊毛に付着するウイルスや細菌を洗い流してくれますが,気管や気管支が乾燥して水分量が不足すると,繊毛がうごきづらくなり,防御する力が下がってしまい,細胞の表面にウイルスや細菌が付着して停滞してしまいます。その結果,細胞内にウイルスや細菌の侵入を許してしまうことになる,これが感染です。特に子どもや高齢者では免疫機能が未熟であったり,弱ったりしているため,保育園や学校,あるいは高齢者施設などでは感染が広がりやすい状況です。高齢者では感染症が重症化しやすく,肺炎などの合併症を引き起こすことがあります。コロナウイルス感染症で多数のお年寄りが命を落としたことも記憶に新しいと思います。
感染症対策としては,マスクの着用,手洗い・うがい,そして加湿が効果的です。感染症の流行期には人込みを避けたり,しっかり換気を行うのも大切です。インフルエンザワクチンを流行前の11月から年内に接種しておくことも大切です。
Q.冬バテってご存じですか?
寒さや日照時間の減少により,「冬バテ」や「季節性気分障害」を感じる人もいます。妙に疲れてしまう,けだるい,なんだか気分が落ち込むなどの症状特徴で,心身ともに不調を引き起こします。適度な運動や日光浴を心がけ,体と心をリフレッシュさせることが予防につながります。
Q.とくに 高齢者では,なにに気を付ければいいの?
高齢者は冬に「虚血性心疾患」「脱水症」「窒息」のリスクが高まります。
虚血性心疾患は,心臓を養う血管の中を流れるの血液が滞り,心臓が悲鳴をあげる病気です。冒頭にお伝えしたとおり,冬場の寒さで血管が収縮したことが引き金となる場合が知られています。特に夜間や明け方の寒い時間帯は注意が必要です。
冬でも脱水症が起こり得ます。寒さで喉が乾きにくくなるため,水分摂取量が減少しがちです。ご高齢の方では,「喉が渇いた」という感覚自体が少し鈍くなることもあり,ついつい脱水症は見逃されがちです。なにかするごとに水を飲む習慣をつけ脱水を予防しましょう。
さらに1月はお餅を喉に詰まらせる窒息事故が多発します。小さく切ったお餅を,さらにもう少し小さく切って,ゆっくり噛んで食べるようにしましょう。入れ歯の調子や歯の具合がよくない高齢者はさらにさらに慎重にたべてくださいね。
Q. 冬を安全に過ごすためには?
冬を健康に過ごすためのポイントをまとめます。
血管と心臓の病気予防:室内外の寒暖差を減らす,脱衣所や浴室を暖める。
感染症対策:マスク,手洗い,うがいなど,できる範囲の予防対策を。加湿器を活用して適切な湿度を保ちましょう。感染症流行期には人込みを避けるのも大切な工夫です。
低体温症対策:暖房を適切に使用し,寒さに注意しましょう。
冬バテ予防:適度な運動と日光浴を。十分な睡眠も大事です。
高齢者のリスク回避:家族や近隣の見守りを強化。お餅は小さく切り分けて。